ページが見つかりませんでした | 非営利法人のスペシャリスト松井公認会計士のブログ https://matsui-jicpa.net 非営利法人のスペシャリスト松井公認会計士のブログ Mon, 04 Mar 2024 01:41:10 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=5.2.20 https://matsui-jicpa.net/wp-content/uploads/2018/01/cropped-sum-2-32x32.jpg ページが見つかりませんでした | 非営利法人のスペシャリスト松井公認会計士のブログ https://matsui-jicpa.net 32 32 社会福祉法人指導監査でよくある指摘事例 https://matsui-jicpa.net/guidance-audit/ https://matsui-jicpa.net/guidance-audit/#respond Mon, 04 Mar 2024 01:41:10 +0000 https://matsui-jicpa.net/?p=4995 社会福祉法人の指導監査による指摘事例は、各所管庁によってまとられたものが、それぞれ公表されています。その中で「あるある」な事例をピックアップし、私の経験を交えて記事にしました。
『他山の石』としてお読みください。

経理規程に定める役職者が理事長から任命されていない

法人における予算の執行及び資金等の管理に関しては、あらかじめ会計責任者等の運営管理責任者を定める等法人の管理運営に十分配慮した体制を確保しなければなりません。
そのために経理規程において業務分担を定め、会計責任者、出納職員、契約担当者等の役職者を理事長が任命します。

それとともに会計責任者と出納職員との兼務を避けるなどの内部牽制に配慮した業務分担、自己点検を行う等、適正な会計事務処理に努めるべきです。

ある法人では、すべての拠点区分(場所を異にします)の出納職員が同一人物でした。
以下のような事例もありました。

  • 統括会計責任者が理事長になっている
  • 施設長が出納職員、固定資産管理責任者を兼務している
  • 会計責任者、出納職員、固定資産管理責任者、契約担当者が同一である

いずれの事例も内部牽制が働いていないため、適切ではありません。
「マンパワーが不足しているので、そんなに多くの役職者を準備できない。」という声も聞きますが、そこは工夫次第でなんとかなるものです。

“一人のひとに任せてしまう”ことを避けるのが、内部牽制のポイントです。

計算関係書類等の様式が会計基準に即していない

計算関係書類や附属明細書は、「社会福祉法人会計基準」、「社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の取扱いについて」に記載されている様式によって作成されなければなりません。

特に、附属明細書は会計ソフトから自動作成されない場合が多いので、計算書類との整合性は慎重に確認してください。
様式を独自にアレンジしている附属明細書を見たことがあります。
恐らく、「社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の取扱いについて」に記載されている様式を記載例程度に考えているのでしょう。

「計算書類との整合性」という場合に最も重要なことは、金額の整合性です
計算書類と注記で金額が違うとか、計算書類と附属明細書で金額が違う、ということがないように十分注意してください。

とりあえず法人本部拠点区分に計上する

法人本部は法人内の管理業務をするところですから、事業に関するものは法人本部には計上されません

例えば、以下のような科目を法人本部で計上していないでしょうか。

  • 経常経費寄附金収入(収益)
    (「寄附の目的が法人のために」となっていれば法人本部での計上は可)
  • 設備資金借入金償還支出、支払利息支出(支払利息)及び設備資金借入金残高
  • 施設整備積立金及び施設整備積立資産

寄附は寄附を受け入れた施設で、借入金及び関連支出(費用)は借り入れた資金を使って事業をしている施設で、施設整備積立金は設備の導入を考えている施設で計上すべきものです。

計上すべき拠点区分を誤ると、拠点区分の計算書類が当該拠点区分の状況を正しく表さなくなってしまいます。

データのイメージ

内部取引消去が行われていない

内部取引とは法人内部の取引のことであり、法人全体の計算書類上に表れるものではありません。別の言い方をすると、法人全体の観点で見たときには存在しない取引が内部取引です。
そのために内部取引消去が行うわけです。
しかしながら、内部取引消去ができていない事例をたびたび見かけます。

例えば、A拠点区分がB拠点区分に資金を貸付た場合を考えます(A、B拠点区分ともに社会福祉事業)。
A拠点区分の貸借対照表では拠点区分間貸付金が、一方のB拠点区分の貸借対照表では拠点区分間借入金が計上されます。
ところが拠点区分レベルの一つ上である事業区分レベルで見たときには、社会福祉事業の貸借対照表では拠点区分間貸付金・借入金とも計上されません。もちろん法人全体の貸借対照表でも同様です。
それは内部取引消去が行われるからです。

例を具体的にして、もう一つ挙げます。
就労支援事業を営んでいるある拠点区分において製造した物品を他の拠点区分で給食として消費した場合に、事業区分レベル及び法人全体レベルでは、就労支援事業収益(収入)と給食費(支出)は、内部取引として相殺消去されます。

 

内部取引のレベル 内部取引消去の場所
事業区分間 事業区分間取引により生じる内部取引高は、資金収支内訳表(第1号第2様式)及び事業活動内訳書(第2号第2様式)の内部取引消去欄において相殺消去します。

また、事業区分間における内部取引の残高は、貸借対照表内訳表(第3号第2様式)の内部取引消去欄において相殺消去します。

拠点区分間 拠点区分間取引により生じる内部取引高は、事業区分資金収支内訳表(第1号第3様式)及び事業区分事業活動内訳書(第2号第3様式)の内部取引消去欄において相殺消去します。

また、拠点区分間における内部取引の残高は、事業区分貸借対照表内訳表(第3号第3様式)の内部取引消去欄において相殺消去します。

サービス区分間 サービス区分間取引により生じる内部取引高は、拠点区分資金収支内訳表(別紙3⑩)及び拠点区分事業活動内訳書(別紙3⑪)の内部取引消去欄において相殺消去します。

思うに、内部取引消去が行われない(できない)ということは、内部取引がどのレベルで実施されているのか、その内部取引をどこで相殺消去すればいいのか、正確に理解できていないからではないでしょうか。

契約の手続きが経理規程に即していない

経理規程において、高額な契約は、金額基準により一般競争入札によることを定めているはずです。
しかし随意契約の限度額を超えているにもかかわらず、競争入札が実施されていない場合があります。要注意です。

随意契約は契約方法の特例であり、「競争入札に付することが適当でないと認められる場合」にのみ行うことができます。そして、稟議書に“その具体的な理由”を明記しなければなりません。

参考までに、随意契約が認められる一般的な例を挙げておきます。

  1. 売買、賃貸借、請負その他の契約でその予定価格が1,000万円を超えない場合
  2. 契約の性質又は目的が競争入札に適さない場合
  3. 緊急の必要により競争に付することができない場合
  4. 競争入札に付することが不利と認められる場合
  5. 時価に比して有利な価格等で契約を締結することができる見込みのある場合
  6. 競争入札に付し入札者がないとき、又は再度の入札に付し落札者がない場合
  7. 落札者が契約を締結しない場合

随意契約にした場合の一般的な事務手続きは、以下のとおりです。
〇仕様書の作成
必要に応じて、仕様書を作成したうえで、見積を依頼します。仕様書作成に当たっては、物品買入等の場合は、品名、品質、形状、寸法卯を記入し、請負業務等の場合は、図面、明細書等で内容をできるだけ明確に記入し、納入(履行)期限についても十分な期間を設定します。

〇見積比較の実施
価格妥当性を判断するため、原則として3社以上から見積を徴収します。特に、随意契約の実施理由を、「① 売買、賃貸借、請負その他の契約でその予定価格が1,000万円を超えない場合」としたときは、下表のように複数の見積徴収が必要です。

【見積を徴収する社数】

契約金額 物品買入・印刷・請負業務等
一定額超~1,000万円以下 3社以上
10万円以上~一定額以下 2社以上
10万円未満 1社以上

【一定額とは】

契約の種類 金額
1 工事又は製造の請負 250万円
2 食料品・物品の買入れ 160万円
3 前各号に掲げるもの以外 100万円
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改正された暦年課税制度と相続時精算課税制度 https://matsui-jicpa.net/inheritance-tax/ https://matsui-jicpa.net/inheritance-tax/#respond Wed, 14 Feb 2024 00:58:17 +0000 https://matsui-jicpa.net/?p=4973 令和5年度税制改正により贈与税の暦年課税と相続時精算課税の見直しが行われ、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税又は相続税の制度が変更されています。

今回の改正の目的

財務省は次のように解説しています。

  1. 生前贈与でも相続でも、最終的な税負担を一定にする税制を構築すること
  2. 生前贈与による若年層への資産移転を促進すること

財産を分割して贈与を繰り返す方法により暦年課税を選択した場合には、贈与税の計算上、相続税よりも低い税率を適用することができます。それを抑制するために、贈与を受けた財産を相続財産に加算(生前贈与加算)する期間が相続開始前3年間から7年間に延長されました。
また、生前贈与と相続とで税負担が一定となる相続時精算課税においては、その利用件数の向上のために、暦年課税とは別に基礎控除が設けられました。

暦年課税に係る生前贈与加算の期間が相続開始前7年間に延長されるタイミング

被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した人が、その被相続人から相続開始前7年以内に贈与を受けた財産がある場合には、原則、その贈与により取得した財産の価額(贈与時の時価)が、被相続人に係る相続税の課税価格の計算上加算されます。

令和13年1月1日後に開始した相続から適用されますが、経過措置が設けられています。
以下の図で確認してください。

データのイメージ

相続時精算課税に係る基礎控除の創設

基礎控除額

令和5年税制改正により、相続税法第21条の11の2が追加され、相続時精算課税に係る贈与税の基礎控除の規定が設けられました。

同上第1項では「贈与税の課税価格から60万円を控除する」と規定されています。
ここで終わらないでください。
さらに租税特別措置法第70条の3の2第1項において、
「同法(相続税法)第21条の11の2第1項の規定にかかわらず、贈与税の課税価格から110万円を控除する」と規定されています。

暦年課税の基礎控除との違い

相続時精算課税の場合、基礎控除額以下の価額の財産の贈与は、贈与税及び相続税はかかりません。

一方、暦年課税の場合は、被相続人から生前に暦年課税に係る贈与によって取得した財産のうち相続開始前7年以内に贈与されたものは、基礎控除額110万円以下の贈与財産も含めて相続財産になります。
贈与税の課税の有無は関係ありません。

したがって、毎年110万円以下の贈与を継続して行う場合には、相続時精算課税を選択することが有利です。

なお、相続時精算課税に係る基礎控除の適用を受けるためには、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日の間に一定の書類を添付した贈与税申告書を提出しておかなければなりません。

相続時精算課税に係る土地又は建物の価額の特例

相続時精算課税適用者が、特定贈与者から贈与により取得した土地又は建物について、その贈与の日からその特定贈与者の死亡に係る相続税申告書の提出期限までの間(ただし、令和6年1月1日以後)に、災害によって一定の損害を受けた場合(その者がその土地又は建物を贈与日から災害発生日まで引き続き所有していた場合に限られる。)には、その相続税の課税価格への加算の基礎となるその土地又は建物の価額は、その贈与の時における価額から、その災害による被災価額を控除した残額とすることができます。

一定の被害とは、その土地の贈与時の価額又はその建物の想定価額のうちに、その土地又は建物の被災価額の占める割合が10%以上となる被害をいいます。

この場合の想定価額とは、その建物の災害発生日における一定の三色により求めた価額をいいます。
また、被災価額とは、被害額から保険金などにより補填される金額を差し引いた金額をいい、その土地の贈与時の価額又は建物の想定価額を限度とします。

災害に関する他の措置との関係

災害減免法(災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律)により、贈与税の軽減等の適用を受けようとする場合又は受けた場合には、この特例は適用できません。

贈与を受けた財産が株式の場合

災害(自然災害だけではなく、火災、鉱害、火薬類の爆発、その他の人為による異常な災害や、害虫、害獣その他の生物による異常な災害を含みます。)による被害が起これば、所有する株式の価値は下がります。

しかし、相続時精算課税に係る土地又は建物の価額の特例の対象となる財産は、土地及び建物に限定されています。
したがって、株式について、この特例を適用することはできません。

暦年課税による贈与税の申告をした場合

父親からアパートを贈与されたとします。贈与時に暦年課税によって申告した後、そのアパートが入居者の失火により焼失しました。さらにその後、父が亡くなり相続税の申告を準備している段階の話です。

残念ながら、この特例は相続時精算課税を適用した場合を前提にしているので、暦年課税による贈与税の申告に係る土地及び建物が被災した場合には適用されません。
つまり、焼失したアパートに関して、贈与時の価額を相続税の課税価格に加算しなければならないのです。

暦年課税制度と相続時精算課税制度との基本比較

以下の図にまとめました。

項目 暦年課税制度 相続時精算課税制度
受贈者 制限なし その年の1月1日に18歳以上の直系卑属(子又は孫)
贈与者 制限なし その年の1月1日に60歳以上の直系尊属(父母、祖父母)
控除額 基礎控除   110万円 基礎控除   110万円

特別控除 2,500万円

税率 累進税率(10%~55%)

ただし、18歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた場合には特例税率の適用あり

定率     20%
選択手続き 不要 「相続時精算課税の選択届出書」を期限内に提出

相続時精算課税制度は一旦選択すると撤回することができません
将来の税制改正により、相続時精算課税が当初よりも不利な制度に変更された場合であっても、暦年課税に戻ることはできません。
注意が必要です。

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公益法人制度改革!より柔軟・迅速な公益的活動のために~行政手続き面から https://matsui-jicpa.net/administrative-procedure/ https://matsui-jicpa.net/administrative-procedure/#respond Sat, 19 Aug 2023 04:42:45 +0000 https://matsui-jicpa.net/?p=4950 2023年6月に『有識者会議最終報告』が公表されました。
その一部をご紹介します。
今後、『有識者会議最終報告』に基づいて2024年に改正法案が国会に提出され、2025年度を目途に新公益法人制度が施行される予定です。

柔軟・迅速な事業展開のための行政手続の簡素化・合理化

公益法人が、多様で変化の激しい社会のニーズに柔軟かつ、きめ細やかに対応して公益目的事業を展開していくためには、必要に応じ柔軟・迅速に事業の改編や組織の再編を行っていくことが求められます。

公益法人制度の適正な運用を確保しつつ、これらの柔軟・迅速な事業展開のニーズに対応していくため、公益認定・変更認定や合併等に関する行政手続を簡素化・合理化した上で明確化することが予定されています。

公益認定・変更認定手続の柔軟化・迅速化

公益認定・変更認定手続については、公益法人が事業内容等を変更する場合、改めて行政庁の「認定」が必要とされます。

また、認定を受けるための審査の過程においてガイドライン等で明記されていない書類を求められることによって、法人に必要以上の負担をかけるとともに、審査期間の長期化を招いています。

『有識者会議最終報告』では、以下のように呼称も含め抜本的に見直します。

イ 変更認定事項の届出化
〇変更認定に係る行政手続については、「事業の公益性(不特定かつ多数の者の利益の増進への寄与)に実質的に大きな影響を与えない変更」であって、かつ、「当該変更後に不適切な事態が発生した場合には事後の監督手段で是正しうると想定されるもの」は、届出事項とする方向で検討する。【法律・内閣府令】
(届出化の方向で検討する事項の例)
・公益目的事業の再編・統合(事業内容の実質的な変更を伴わないもの)、縮小・廃止など、新たな公益性の判断を要しない変更
・収益事業等の内容の変更
認定事項と届出事項の具体的な基準を明確化する。明確化に当たっては、事業目的の公益性、受益の機会、事業の質、公正性等への影響の観点から、判断の基礎となる考え方を明らかにするとともに、具体的な事例を踏まえた類型を整理し、法人が外形的に判断できるような基準とする方向で検討する。【ガイドライン】

ロ運用面での審査の迅速化
〇認定等審査の迅速化、透明性・予見可能性向上のため、認定等審査に当たり申請者に対して求める書類を簡素化・合理化し、明確化する。【内閣府令・ガイドライン】
〇 認定等に関する行政の判断のぶれやばらつきを極力なくす観点から、上記イで明確化された基準等について、国・都道府県の関係職員への研修を強化する。
〇行政庁において認定等に係る審査に要した期間の状況を公表し、短縮を図る。

データのイメージ

合併手続等の柔軟化・迅速化

公益法人の合併に係る行政手続は、現状、おおむね標準処理期間内で処理されているものの、合併の形式(吸収合併・新設合併)・主体(存続法人・消滅法人・新設法人)・法人形態(公益法人、移行法人、一般社団・財団法人)によって手続が異なり、必要な段取り・手続が分かりにくいとの声があります。

『有識者会議最終報告』では、以下のように見直します。

イ合併手続の見直しと透明性の向上
吸収合併に係る行政手続については、消滅法人が実施していた事業を変更なく引継ぐ場合等について、変更認定手続の考え方に沿って、届出化を検討する。【内閣府令】
〇新設合併に係る行政手続については、地位の承継認可手続に関する審査のメリハリ付け、必要書類の明確化・合理化等による迅速化を検討する。【ガイドライン】
〇新法制に基づき合併手続のマニュアル化・周知を図る。

ロ法人による自発的な認定取消しの取扱い
法人の経営判断による公益法人、一般社団・財団法人間の転換容易化の観点から、認定取消し後、5年間は再認定を受けることができないとする欠格事由について、自発的な申請に基づく取消しの場合を除外することを検討する。【法律】

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公益法人制度改革!より柔軟・迅速な公益的活動のために~財務規律面から https://matsui-jicpa.net/financial-discipline/ https://matsui-jicpa.net/financial-discipline/#respond Thu, 10 Aug 2023 00:35:21 +0000 https://matsui-jicpa.net/?p=4926 2023年6月に『有識者会議最終報告』が公表されました。
その一部をご紹介します。
今後、『有識者会議最終報告』に基づいて2024年に改正法案が国会に提出され、2025年度を目途に新公益法人制度が施行される予定です。

資金のより効果的な活用のための財務規律の柔軟化・迅速化

公益法人が保有する公益に活用されるべき資金については、過大に蓄積・滞留することなく、公益目的事業の実施のためにできる限り効果的に活用されることが重要です。

こうした趣旨で設けられている公益法人の財務規律について、法人の実情や環境変化に応じ、自らの経営判断と説明責任において資金を最大限効果的に活用できるよう、規律内容が柔軟化・明確化されます。

中期的な収支均衡の確保

収支相償原則」は、一般的に「単年度の収支赤字を強いるものである」と理解されています。
しかしその本質は、公益目的事業の収入と適正な費用を透明化し比較することで、収入超が恒常化しない収支構造であることを制度上確保し、公益目的事業に充てられるべき財源の最大限の活用を促す規律です。

『有識者会議最終報告』では、以下のように呼称も含め抜本的に見直すことを指摘しています。

イ 「中期的な収支均衡
〇「公益目的事業の実施に要する適正な費用を償う額を超える収入を得てはならない」とされている現行の規定を、公益目的事業の収入と適正な費用について中期的に均衡を図る趣旨が明確となるよう見直す。【法律】
「中期的な収支均衡」の判定は、公益目的事業全体について、過去に発生した「赤字」も通算した収支差額に着目して行う。その際、ロの「公益充実資金(仮称)」の積立ては費用とみなす。その上でなお「黒字」が生じる場合は、中期的に均衡状態を回復するものとする。【内閣府令・ガイドライン】
・法人が設定し認定を受けている「公1」・「公2」等の事業ごとの収支については、法人の損益計算書(内訳表)により情報開示する(構造的に収入が費用を上回る(黒字)事業がある場合は、行政庁において当該事業の公益性の確認等を行う。)。
・収支均衡の判定及び均衡状態を回復する際の「中期的」は、5年間とする。
ロ 「公益充実資金(仮称)」の創設
〇将来の公益目的事業の発展・拡充を積極的に肯定する観点から、「公益充実資金(仮称)」を創設する。当該資金の積立ては「中期的な収支均衡」の判定において費用とみなす。【法律】
〇「公益充実資金(仮称)」は、公益目的事業に係る従来の「特定費用準備資金」及び「資産取得資金」を包括する資金とし、法人の実情や環境変化に応じた柔軟な資金管理が可能となるよう、以下のような設定も可能とする。資金の積立て及び使用・取崩しの状況は、法人において情報開示することとする。【内閣府令・ガイドライン・会計基準】
・細かな事業単位ではなく大括りな設定(「公1」・「公2」等の事業単位を横断する使途の設定も可)
・いまだ認定されていない将来の新規事業のための資金の積立て
〇「指定正味財産」の「指定」における使途制約範囲の緩和
「指定正味財産」に繰入れられる寄附金の使途について、最大で「法人の公益目的事業全体」とする指定も可能とし、寄附者の意思確認を容易化する。【ガイドライン・会計基準】

最大の変更点は、過去の赤字を考慮することにあります。

従来であれば、当年度に公益目的事業会計の当期経常増減額が50の黒字になった場合、次年度以降の赤字(次年度△15、次々年度△20)と対応させます。
その結果、収支相償上の剰余金は次々年度末において15(=50-15-20)の残っていると計算します。

ところが改正案では、過去の赤字(前年度△18、前々年度△12)を含めて対応させることが可能となります。
その結果、収支相償上の剰余金は次々年度には解消している(△18+△12+50-15-20=△15)と計算します。

データのイメージ

遊休財産(使途不特定財産)の適正管理

遊休財産規制は、公益法人が、社会経済情勢の変化等に対応しつつ、安定した法人運営を継続するため、法人にとって一定程度自由に使用・処分できる財産を確保しつつ、公益目的事業の実施とは関係なく財産が法人内部に過大に蓄積されること(死蔵)を避けるための規律です。

しかしながら、安定した法人運営の継続や不測の事態に備えるために必要な財産は、法人の事業内容や規模等によって異なり、公益目的事業費1年相当分という上限を超えた保有が必要な場合もあり得ます。
また、新型コロナウイルス感染症等の突発的な理由により、例年並みの事業を実施できなかった場合には、保有の認められる上限額が急激に変動することや、上限額となる当該事業年度の事業費が事業年度末まで確定しないことなど、変化の激しい時代において、法人にとって予見可能性が低い枠組みとなっています。

『有識者会議最終報告』では、以下のように見直します。

イ「上限」(公益目的事業費1年相当分)超過の取扱い
〇遊休財産(使途不特定財産)が合理的な理由により上限額を超過した場合、法人自ら、「超過した理由」及び「超過額を将来の公益目的事業に使用する旨」を行政庁の定める様式に記載し、開示することで明らかにする。【法律・内閣府令】
〇貸借対照表の内訳表により財務状況を透明化し、超過額が公益目的事業のために使用されることを明確化する。【ガイドライン・会計基準】
〇翌事業年度以降も上限額を超過している状態が継続している場合、そのことに引き続き合理的な理由があるか、また超過額の公益目的事業への使用状況等をフォローアップする。【ガイドライン】
ロ「上限」額の算定方法について、予見可能性の向上、短期変動の緩和
上限額の基準となる1年相当分の公益目的事業費について、現行の「当該事業年度の公益目的事業費」から、「前事業年度までの5年間の公益目的事業費の平均額」に改める。なお、法人の公益目的事業の規模を表す指標として直近の公益目的事業費がより適切である等の場合は、法人においてその理由を明示した上で、「当該事業年度の公益目的事業費」又は「前事業年度の公益目的事業費」を選択することも可能とする。【法律・内閣府令】

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令和5年度税制改正大綱の注目ポイント3つ https://matsui-jicpa.net/outline2023-tax/ https://matsui-jicpa.net/outline2023-tax/#respond Wed, 01 Mar 2023 05:39:20 +0000 https://matsui-jicpa.net/?p=4881 今回は、気になる点を3つだけ取り上げます。
まず、相続時精算課税制度に暦年課税制度と同様の基礎控除が創設される一方、暦年課税制度における生前贈与の加算期間が3年から7年に延長されます。
次に、特定資産の買換え特例の適用を受けるためには、届出書の提出が義務付けられます。
最後に、インボイス制度の導入によってこれまで免税事業者であった者が納税する場合、納税限度額は課税標準額に対する消費税額の2割となります。

相続税精算課税制度、暦年課税制度の改正

生前贈与に関する制度改正の背景と目的

相続時精算課税制度は、平成15年度に次世代への早期の資産移転と有効活用を通じた経済社会の活性化の観点から導入されたものです。
今回の改正では、暦年課税との選択制は維持しつつ、同制度の使い勝手を向上させます。
具体的には、申告等に係る事務負担を軽減する等の観点から、相続時精算課税においても、暦年課税と同水準の基礎控除が創設されます。

改正の概要(相続時精算課税制度)

相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与を受けた財産に対する贈与税について、従来の特別控除額2,500万円とは別に、課税価格から基礎控除として110万円を毎年控除できることになります。

また、従来の相続時精算課税制度では、相続税の計算をする際に生前贈与を受けた財産の価格が相続税の計算に取り込まれますが、その価格は生前贈与を受けた時点の課税価格とされていました。
今回の改正によって、特定贈与者から贈与を受けた一定の土地又は建物について、相続税の申告書の提出期限までの間に、災害によって一定の損害を受けた場合には、贈与の時における価額から災害によって被害を受けた部分に相当する額を控除した残額が、相続税の課税価格に加算される額になります。

改正の概要(暦年課税制度)

暦年課税制度における生前贈与の加算期間が4年延長され、相続の開始前7年以内とされます。

この改正によって延長された4年間に受けた贈与については、総額100万円までは相続財産に加算されません
その趣旨は、過去に受けた贈与の記録・管理に係る事務負担を軽減することにあります。

相続時精算課税制度と暦年課税制度との選択

相続時精算課税制度を選択すると、それ以後特定贈与者からの贈与については暦年課税制度に戻ることはできません。

今回の改正により、相続時精算課税制度においても各年の基礎控除額110万円の累積額が相続税の課税価格から除外されるため、相続時精算課税制度の方が有利になったといえます。
ただし、相続時精算課税制度は、特定贈与者の年齢が1月1日現在60歳以上で、かつ推定相続人の年齢が1月1日現在18歳以上であることが要件とされています。
これに対して、暦年課税制度については、贈与者も受贈者も年齢による制限を受けません。

相続時精算課税制度と暦年課税制度の選択については、総合的に検討して判断する必要があります。

生前贈与に関する制度改正の適用時期

相続税精算課税制度、暦年課税制度に係る改正は、いずれも令和6年1月1日以後の贈与から適用されます。
また、令和6年1月1日以後に生ずる災害により被害を受けた場合について適用されます。

暦年課税制度における生前贈与の加算期間の延長は、以下の表のように、令和6年1月1日の3年後である令和9年1月1日以後に相続が開始したものから順に延長されていきます。

相続開始年 加算期間
令和6年 令和3年から令和6年までの相続開始前3年間
令和7年 令和4年から令和7年までの相続開始前3年間
令和8年 令和5年から令和8年までの相続開始前3年間
令和9年 令和6年1月1日から令和9年までの相続開始前4年間
令和10年 令和6年1月1日から令和10年までの相続開始前5年間
令和11年 令和6年1月1日から令和11年までの相続開始前6年間
令和12年 令和6年1月1日から令和12年までの相続開始前7年間
令和13年 相続開始前7年間

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特定資産の買換えの場合の特例

買換え特例改正の背景と目的

租税特別措置は真に必要なものだけに限定すべきであるので、毎年度、期限が到来するものを中心に、各措置の利用状況等を踏まえつつ、廃止を含めてゼロベースで見直しが行われます。
必要性や政策効果を考慮して、その範囲や繰延べ割合が改正されています。

買換え特例改正の概要

以下の見直しを行った上で、その適用期限が3年延長されます。
〇既成市街地等の内から外への買換えを適用対象から除外します。

〇航空機騒音障害区域の内から外への買換えについて、譲渡資産から、令和2年4月1日前に特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法の航空機騒音障害防止特別地域又は公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律の第2種区域になった区域内にある資産を除外します。

〇長期所有の土地、建物等から国内にある土地、建物等への買換えについて、東京都の特別区の区域から地域再生法の集中地域以外の地域への本店又は主たる事務所の所在地の移転を伴う買換えの課税の繰延べ割合を90%(現行 80%)に引き上げ、同法の集中地域以外の地域から東京都の特別区の区域への本店又は主たる事務所の所在地の移転を伴う買換えの課税の繰延べ割合を60%(現行 70%)に引き下げます。

〇譲渡資産を譲渡した日又は買替資産を取得した日のいずれか早い日の属する3月期間の末日の翌日2月以内に、本特例の適用を受ける旨、適用を受けようとする措置の別、取得予定資産又は譲渡予定資産の種類等を記載した届出書を、納税地の所轄税務署長に届け出ることを要件に加えます
上記の「3月期間」とは、その事業年度をその開始の日以後3月ごとに区分した各期間をいいます。

買換え特例改正の適用時期

令和5年4月1日以後に譲渡する資産から適用されます。
また、届出書が要件とされる改正は、令和6年4月1日以後に譲渡する資産から適用されます。

インボイス制度(適格請求書等保存方式)の見直し

インボイス制度改正の背景と目的

これまで免税事業者であった者がインボイス発行事業者になった場合の納税額を売上税額の2割に軽減する3年間の負担軽減措置を講ずることにより、納税額の激変緩和を図ります。
簡易課税制度の適用を受けている者は、この措置によってさらに事務負担が軽減されます。

インボイス制度改正の概要

〇免税事業者が、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において、次のいずれかにより事業者免税制度の適用を受けられないこととなる事業者が対象となります。

  1. 免税事業者が適格請求書発行事業者となったこと
  2. 課税事業者選択届出書を提出したこと

ただし、次に該当する事業者はこの制度の対象にはなりません。

  • インボイス制度の施行前から、課税事業者選択届出書の提出によって引き続き事業者免税点制度の適用を受けられない場合
  • 個人事業者が令和4年に課税事業者選択届出書を提出した場合は、令和5年1月1日から、すなわちインボイス制度施行前から引き続き事業者免税点制度の適用が受けられないので、この制度は適用できません。

  • 基準期間の課税売上高が1,000万円を超えるために事業者免税点制度の適用を受けられない場合
  • 個人事業者について、令和5年中の課税売上高が1,000万円を超えると、令和8年はこの制度の適用を受けられません。

  • 課税期間の特例、すなわち課税期間を3か月や1か月とする特例の適用を受ける場合
  • その他、適格請求書発行事業者の登録をしなくても、事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる場合
  • 資本金1,000万円以上の新設法人など

    〇この制度の適用を受けると、課税標準額に対する消費税額から控除する金額を、当該課税標準額に対する消費税額に8割を乗じた額とすることにより、納付税額はその課税期間の課税税標準額に対する消費税額の2割となります。

    〇簡易課税の場合は、課税売上ごとに簡易課税の業種区分を付けなければなりませんが、この制度の適用を受ける場合は、一律に控除割合が8割とされるので、業種区分を行う必要はありません。

    〇適格請求書発行事業者がこの特例の適用を受けようとする場合には、確定申告書にその旨を付記するたけでよく、事前の手続きは要りません

    〇卸売業で簡易課税の適用を受ける場合や仕入税額控除によって還付を受けることができる場合など、この制度の適用を受けるよりも納税額が少なくなる場合は、課税期間ごとに任意にこの制度を選択しないことができます。

    インボイス制度改正の適用時期

    令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間に適用されます。
    9月決算会社の場合には3期間、そうでない場合は4期間にわたる経過措置です。

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    インボイス制度に対応するための注意事項 https://matsui-jicpa.net/invoice/ https://matsui-jicpa.net/invoice/#respond Thu, 27 Oct 2022 23:48:31 +0000 https://matsui-jicpa.net/?p=4805 インボイス制度は、令和5年(2023年)10月1日から消費税の仕入税額控除の方式として導入されます。
    インボイス制度の導入は令和元年(2019年)10月に消費税率が上がり、標準税率と軽減税率との複数税率が採用された時点で決まっていました。

    インボイス制度の導入は延期されるのでは、という期待は別にして、導入に向けてどのように準備しておけばよいのか、注意事項をまとめます。

    インボイス制度とは

    インボイス制度とは、適格請求書保存方式のことをいいます。
    もっと分かりやすく言うと、「売り手が買い手に正確な適用税率や税額を伝えるツール」と理解してください。

    インボイス制度は売り手、買い手双方に適用されます。
    売り手は、取引相手(買い手)から求められたときには、インボイスを交付しなければなりません。買い手は、原則として取引相手(売り手)から交付を受けたインボイスを保存する必要があります。
    それは、買い手が仕入税額控除をするための条件になるからです。

    インボイス制度の導入されるまでに、売り手は適格請求書発行事業者になっていなければなりません。
    適格請求書発行事業者でなければ、インボイスを発行できないからです。

    インボイス制度が必要となる背景には、8%と10%の2つの消費税率の存在があります。
    令和元年(2019年)10月1日からの消費税率の8%から10%への引き上げに際して、食料品などに対し軽減税率が導入されました。
    2つの税率が平行して適用されているため、どの取引や商品に、どちらの税率が適用されているかを明確にする必要がある、というのが導入の目的です

    現行の区分記載請求書とインボイスの記載事項の違いについては、過去の記事を参照してください。

    消費税の軽減税率を簡単にまとめましょう!
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    制度開始前の事前準備

    適格請求書発行事業者の登録申請

    課税事業者の場合

    まずは、適格請求書発行事業者の登録が必要です。
    登録申請書の受付は令和3年(2021年)10月1日から開始されています。制度が始まる令和5年(2023年)10月1日からインボイス(適格請求書)を発行するためには、令和5年(2023年)3月31日までに登録申請書を提出しなければなりません。
    審査に一定の時間がかかるため、余裕を持って提出してください。

    免税事業者の場合

    自社の業績や取引先の状況を踏まえて、課税事業者となるか検討しなければなりません。課税事業者となってインボイスを発行しなければ取引してもらえなくなる恐れがあるからです。
    その意味では、取引先(得意先)のニーズが課税事業者になるかどうかの決定に大きく影響します
    一方で、課税事業者になれば消費税を納付することになりますから、これまで必要のなかった資金負担が生じます。

    自社が発行する請求書等の確認

    適格請求書発行事業者となる場合には、自社が発行している請求書、納品書、売上明細書等を確認します。どのような書類を取引先に渡しているのかを確認し、どの書類をインボイスにするかを決定します。

    そして、該当する書類が、インボイスに必要な6つの記載事項と消費税額の計算方法を満たしているか確認します。
    逆に言えば、現在の請求書よりも納品書の方が情報量が多いのであれば、納品書をインボイスにする前提で対応すべきです。

    6つの記載事項

    1. 請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
    2. 取引年月日
    3. 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
    4. 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率
    5. 税率ごとに区分した消費税額等
    6. 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

    販売管理システムの対応状況を確認

    インボイス(適格請求書)とする書類が必要な記載事項を満たしていない場合、現在利用している販売管理システムを修正して対応できるのか、修正に要する期間はどれくらいか、また、そのためのコストはどの程度かを確認しなければなりません。
    自社では対応できないでしょうから、早急に取り掛かるべきです
    また、場合によってはレジやシステムの入れ替えが必要になるのかもしれません。

    さらに状況によっては、「デジタルインボイス」を想定しておくべきかもしれません。
    「デジタルインボイス」(標準化され構造化された電子インボイス)とは、PDF化したインボイス(適格請求書)を指すのではなく、請求情報等を電子データとして送受信する仕組みをいいます。
    インボイスと同様、令和5年(2023年)10月からの制度開始が予定されています。

    注意すべきは、すべての事業者が「デジタルインボイス」を目指す必要はありません。
    取引先との間でデータによって請求情報等をやり取りする、とか「デジタルインボイス」からの仕訳の自動計上や支払い管理・入金消し込み等で活用する、ことを考えている場合に限定されます。
    つまり、自社の業務プロセスを、紙を前提としたものからデジタルを前提にしたものに変更することを伴っているのです。

    制度開始後の対応

    取引先が適格請求書発行事業者かを確認

    インボイス(適格請求書)を受け取った場合、本当に取引先が適格請求書発行事業者かを確認します。
    継続的に取引を行う取引先については、インボイス制度開始前に適格請求書発行事業者となる意向かどうか確認しておいてください。

    継続的に取引を行う取引先の中に免税事業者がいる場合には、課税事業者と分けて管理する必要があります。

    消費税額の計算

    売上税額

    原則≪割戻し計算≫・・・現行税率ごとに区分した課税期間中の課税資産の譲渡等の税込み価額の合計額に、108分の100又は110分の10を掛けて税率ごとの課税標準額を算出し、それぞれの税率(6.24%又は7.8%)を掛けて売上税額を算出します。

    特例≪積上げ計算≫
    相手先に交付したインボイスの写しに記載された消費税額の合計額に100分の78を掛けて算出した金額を売上税額とすることもできます。
    ただし、売上税額を積上げ計算した場合、仕入税額も積上げ計算しなければなりません。

    仕入税額

    原則≪積上げ計算≫・・・現行相手先から交付を受けたインボイスに記載されている消費税額等のうち課税仕入に係る部分の金額額に100分の78を掛けて仕入税額を算出します。

    特例≪割戻し計算≫
    税率ごとに区分した課税期間中の課税仕入に係る支払対価の額の合計額に、108分の6.24又は110分の7.8を掛けて算出した金額を仕入税額とすることもできます。
    ただし、割戻し計算により仕入税額を計算できるのは、売上税額も割戻し計算している場合に限られます。

    売上消費税額を具体的に考えます。

    設例税込単価900円の商品を10,000回販売
    税率10%(消費税率7.8%、地方消費税率2.2%)

    売上消費税額
    ≪割戻し計算≫
    9,000,000円(税込売上)×100/110=8,181,818円
    千円未満切捨 8,181,000円
    8,181,000円×7.8%=638,118円

    ≪積上げ計算≫
    900円×10/110=81.8円
    端数調整切捨て 81円
    81円×10,000×78/100=631,800円

    設例のケースでは、積上げ計算によった方が売上に対する消費税額が小さくなるため、納税者には有利になります。
    なぜか。販売時の端数処理によって切捨てられた消費税額が、売上に対する消費税額に含まれないからです

    仕入消費税額も同様に考えて、割戻し計算と積上げのいずれか有利な方法を選択することが賢明です。

    仕入税額控除の経過措置

    インボイス制度開始後も6年間は、免税事業者からの仕入に関しても仕入税額控除の経過措置が適用されます。

    具体的な内容は次のとおりです。
    【期間による仕入税額控除割合】

    期間 割合
    2023年 10 月1日から2026年9月 30 日まで 仕入税額相当額の80%
    2026年 10 月1日から2029 年9月 30 日まで 仕入税額相当額の50%
    2029 年10月1 日以後 控除不可

     

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    令和4年度税制改正大綱の基本的な考え方 https://matsui-jicpa.net/outline2022-tax/ https://matsui-jicpa.net/outline2022-tax/#respond Wed, 23 Mar 2022 06:15:44 +0000 https://matsui-jicpa.net/?p=4710 岸田内閣は、新型コロナウイルス感染症への対策に万全を期しつつ、未来を見据え、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトに、新しい資本主義の実現に取り組むとしています。
    令和4年度税制改正大綱の中心は賃上げ税制にあると言われますが、今回は基本的な考え方に重点を置いて取り上げようと思います。

    基本的な考え方

    新しい資本主義の実現のためには、企業が研究開発や人的資本などへの投資を強化し、中長期に稼ぐ力を高めるとともにその収益を更なる未来への投資を循環させることが不可欠です。
    また、企業活動の成果を株主だけでなく従業員や下請企業を含む多様なステークホルダーへの還元へと循環させていくことが必要です。

    成長と分配の好循環の実現

    以下に実現のための方策のみを列挙します。

    ① 積極的な賃上げを促すための措置
    ② オープンイノベーション促進税制の拡充
    ③ 未来への投資等に向けた経済界への期待
    ④ 地方活性化、災害の対応
    ⑤ 住宅ローン控除等の見直し
    ⑥ 固定資産税等
    ⑦ 中小・小規模事業者の支援
    ⑧ 経済と環境の好循環の実現
    ⑨ その他考慮すべき課題

    「オープンイノベーション促進税制の拡充」と「住宅ローン控除等の見直し」については、後で個別に取り上げます。

    経済社会の構造変化と踏まえた税制の見直し

    個人所得課税の在り方

    個人所得課税については、日本経済社会の構造変化を踏まえ、配偶者控除の見直し、給与所得控除・公的年金等控除・基礎控除の一体的な見直し等の取り組みが進められてきました。
    多様で柔軟な働き方が一層拡大する中、働く意欲を阻害せず公平な税制、かつ働き方に中立的な税制を構築していくことが重要です。

    例えば、今まで勤めていた会社を辞めてフリーランスとして働き始めた人がいるとします。
    フリーランスとして稼いだ収入は、事業所得あるいは雑所得になります。
    ということは給与所得控除とは無縁なので、給与所得者に比べて税務上不利になってしまう可能性があります。
    基礎控除額を引き上げて給与所得控除額を引き下げたのは、この流れです
    将来的に給与所得控除額は下がり続けると予想できます。

    相続税・贈与税のあり方

    高齢化に伴い高齢世代に資産が偏在するとともに、相続による資産の世代間移転の時期がより高齢期にシフトしています。結果として若年世代への資産移転が進みにくい状況にあります。

    一方、相続・贈与税は、税制が資産の再分配機能を果たす上で重要な役割を担っています。
    高齢世代の資産が、適切な負担を伴うことなく世代を超えて引き継がれることとなれば、格差の固定化につながりかねません。
    したがって、資産の再分配機能の確保を図りつつ、資産の早期の世代間移転を促進するための税制を構築することが重要になります。

    我が国では、相続税と贈与税が別個の税体系として存在しており、贈与税は相続税の累進回避を防止する観点から高い税率が設定されています。

    大綱では次のように記述されています。
    「今後、諸外国の制度も参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化防止等の観点も踏まえながら、資産移転時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。」

    超わかりやすく言い換えれば、贈与税と相続税の一本化を考えるということです

    以下の表は、各国の制度を比較している自民党税制調査会資料から日本とアメリカだけを抜粋したものです。

    【相続税の概要】

    日本 アメリカ
    課税方式 法定相続分課税方式 遺産課税方式
    最低税率 10% 18%
    最高税率 55% 40%
    基礎控除等 3,000万円+600万円×法定相続人数

     

    別途、配偶者の税額を控除

    1,158万ドル(12.6億円)

     

    配偶者は免税

    累積制度 相続前3年間に贈与された財産 相続前全期間に贈与された財産

     

    【贈与税の概要】

    日本 アメリカ
    暦年課税 相続時精算課税
    納税義務者 受贈者 受贈者 贈与者
    最低税率 10% 20% 18%
    最高税率 55% 40%
    累積制度 なし 過去すべて 過去すべて
    相続財産への合算 過去3年分 精算課税適用分 過去すべて
    基礎控除等 年間110万円 累積2,500万円 遺産税と共通

    1,158万ドル(12.6億円)

     

    配偶者は免税

    個人所得課税

    住宅ローン控除

    本格的な人口減少、少子高齢化社会が到来する中、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた対策が急務です。
    このような社会環境の変化に対応した豊かな住生活を実現するためには、住宅の省エネ性能の向上及び長期優良住宅の取得を促進するとともに、既存の住宅ストックの有効活用及び優良化を図ることが重要となります。

    【具体的な見直し点】

    • 4年間延長
    • 認定住宅、ZEH水準省エネ住宅、省エネ基準適合住宅について借入限度額の上乗せ
    • 新築の認定住宅等について控除期間の上乗せ

    ZEH水準省エネ住宅とは、「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」といい、「ゼッチ」とも呼ばれる。
    家屋の断熱性を高め、太陽光発電システムや蓄電システムを利用して、年間を通して消費するエネルギー量と同等のエネルギーを作り出すシステムを持つ。

    改正概要図でまとめると以下のようになります。

    入居年
    令和4年 令和5年 令和6年 令和7年
    借入限度額 新築・買取再販 認定住宅 5,000万円 4,500万円
    ZEH水準省エネ住宅 4,500万円 3,500万円
    省エネ基準適合住宅 4,000万円 3,000万円
    その他の住宅 3,000万円 2,000万円(*1)
    既存住宅 認定住宅

    ZEH水準省エネ住宅

    省エネ基準適合住宅

    3,000万円
    その他の住宅 2,000万円
    控除率 0.7%
    控除期間 新築・買取再販 13年(*2)
    既存住宅 10年
    合計所得金額要件 2,000万円
    床面積要件 50㎡(*3)以上
    築年数要件 昭和57年以降に建築された住宅

    (*1)令和6年以後に建築確認を受ける新築住宅は適用外
    (*2)令和6年、7年に入居した「その他の住宅」は10年
    (*3)令和5年以前に建築確認を受けた新築住宅は、40㎡以上とされる。ただし、合計所得金額が1,000万円以下の年に限って適用される。

    適用時期令和4年から7年までの間に居住した場合に適用されます。

    住宅ローン控除に係る確定申告手続き

    住宅ローン控除の適用にあたり必要となる、納税者による住宅ローン年末残高証明書の提出を不要とする等、e-Taxの利便性を向上させる取り組みが進めるられます。

    改正概要

    〇令和5年以後に居住の用に供する家屋について、住宅ローン控除を受けようとする場合は、住宅ローンを組む金融機関等に「住宅ローン控除申請書」を提出する。

    〇住宅ローン控除申請書の提出を受けた金融機関等は、毎年12月31日現在の住宅ローン残高を記載した調書をその金融機関の本店等の所轄税務署に提出する。

    〇本人は税務署に住宅ローンの残高証明書を提出する必要がなくなる。

    適用時期令和5年に入居する者が、令和6年1月1日以後に行う確定申告及び年末調整について適用されます。

    法人課税

    オープンイノベーション促進税制の拡充

    研究開発税制が主として企業内部での研究開発を支援する目的で設けられているのに対し、オープンイノベーション促進税制は、先端技術や開発力を持つ一定のスタートアップ企業に対して、開発費用の積極的な資金注入を目的とする投資を行い、そのスタートアップ企業が開発した成果を取り入れることを目的として令和2年度改正で設けられました。

    オープンイノベーション促進税制の基本的な仕組みは、スタートアップ企業の株式等の取得価額の25%相当額を限度として損金算入を認めるもので、その損金算入額は別表4の※印減算で所得から控除し、別表5(1)には反映されないので、永久的な減税です。

    令和4年度改正により、対象となるスタートアップ企業の範囲が拡充され、益金算入の判断基準となる年数が3年以内に短縮された上で、適用期限が2年延長されます。

    改正概要

    〇出資の対象となる特別新事業開拓事業者の要件のうち設立の日以後の期間に係る要件について、売上高に占める研究開発費の額の割合が10%以上の赤字会社にあっては、設立の日以後の機関を15年未満(現行:10年未満)とする。

    〇対象となる特定株式の保有見込期間要件における保有見込期間の下限及び取崩し事由に該当することとなった場合に特別勘定の金額を取り崩して益金算入する期間を、特定株式の取得の日から3年(現行:5年未満)とする。

    適用時期令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。

    少額減価償却資産等から貸付用資産の除外

    少額減価償却資産(10万円未満)、一括償却資産(20万円未満)、中小企業者に対する少額減価償却資産の特例(30万円未満)の対象となる資産の範囲から、貸付の用に供されるものが除外されます。

    したがって、貸付用の少額減価償却資産等については、事業の要に供した事業年度において取得価額に損金算入することができず、通常の減価償却資産として資産に計上し、耐用年数にわたって減価償却をしていかなければなりません。

    ただし、貸付がその法人の主要な事業として行われている場合には適用されません。
    その具体的な判断基準は、今のところ明らかになっていません

    適用時期令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。

    消費課税

    免税事業者に対する適格請求書発行事業者の登録

    消費税の複数税率制度の下において適正な課税を確保する観点から、令和5年10月に施行される消費税の適格請求書等保存方式(インボイス制度)について、円滑な制度移行に向けて政府・与党は一体となって万全の対応を進めるとしています。

    改正概要

    〇免税事業者が適格請求書発行事業者の登録をする際に、課税期間の途中から課税事業者になれる経過措置について、免税事業者からの仕入に対して80%又は50%の仕入税額控除が認められる期間中に適用できるよう、その経過措置の期間が令和11年9月30日まで6年延長されます。

    〇免税事業者が令和5年10月1日の属する課税期間において登録の申請を行うと、経過措置によって課税事業者選択届出書を提出しなくても、登録日から課税事業者になります。
    なお、登録申請書を令和5年3月31日までに提出した場合は、令和5年10月1日が登録日になります。

    適用時期令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中に適格請求書発行事業者の登録を受ける場合に適用されます。

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    6号財産との関連性から見た公益法人の特定資産の本質とは https://matsui-jicpa.net/specific-asssets/ https://matsui-jicpa.net/specific-asssets/#respond Wed, 04 Aug 2021 01:37:23 +0000 https://matsui-jicpa.net/?p=4660 特定資産とは、特定の目的のために使途、保有又は運用方法等に制約が存在する資産をいいます。特定資産には、預金や有価証券等の金融資産のみならず、土地や建物等も含まれます。
    会計的には上記の説明で十分なのですが、収支相償や遊休財産規制という公益法人制度に影響を与え得る問題ですので注意が必要です。

    特定資産の源泉

    特定資産はその名前から明らかなように貸借対照表上、資産として計上されます。
    「源泉」とは、資金調達の方法を意味し、次の3類型が考えられます。

    一般正味財産

    特定費用準備資金を思い起こしてください。
    法人が自らの判断で、公益事業に関連して特定の目的のために自己資金を使うわけです。
    この場合には、何のために、何を、いつ、いくら、が法人内でオーソライズされていなければなりません。

    例えば、創立50周年を記念して特別な事業を考えているならば、創立50周年記念で(何のために)、記念式典の開催や記念品の配布を(何を)、5年後に(いつ)、1,000万円(いくら)をかけることが明確になって初めて「創立50周年記念事業積立資産」という特定資産を計上することになります。
    将来5年間にわたって、毎年度200万円ずつ積み立てていきます。

    流動資産の預金とは別にしておきたいという理由だけで、目的、内容、時期、金額等があいまいな状態で特定資産にすることはできません

    指定正味財産

    寄付によって受け入れた預金や有価証券を想定してください。
    「公益目的事業のために使ってほしい。」という指定が寄付者からあれば、正味財産増減計算書上、その寄付金は指定正味財産の部の収益に計上します。
    その結果貸借対照表上では、特定資産(資産)と指定正味財産(正味財産)が同額増加します。

    負債

    退職給付積立資産を思い起こしてください。
    負債に計上されている退職給付引当金を資金面で担保したい場合に、特定資産を計上します。

    指定正味財産から一般正味財産への振替と特定資産

    公益法人会計基準では、指定正味財産を財源とする資産について使途の指定が解除されるとき、正味財産増減計算書において指定正味財産増減の部から一般正味財産増減の部の収益へ振り替えて、一般正味財産増減の部の費用と対応させます。

    指定正味財産から一般正味財産への振替の会計処理に関しては、こちらを参照してください。

    公益法人の正味財産増減計算書が活動計算書に変わったら、どうなる?

    指定正味財産から一般正味財産への振替は、法人運営が基本財産や特定資産の運用益で成り立っている場合に採られる処理方法です。

    この方法を採用する場合に、注意すべきことがあります
    正味財産増減計算書上、指定正味財産増減の部において一般正味財産への振替を行った結果なお、当期指定正味財産増減額が正数になっていれば(指定正味財産増減の部で利益が出ていれば)、その額と同額を特定資産を増やす処理をしておくことです。
    「処理をしておくこと」とは、貸借対照表の表示の問題です。

    特定資産と6号財産との関係

    定期提出書類において、別表C(2) 控除対象財産「6.交付者の定めた使途に充てるために保有している資金」を通称、6号財産と呼びます。

    6号財産は、寄附その他これに類する行為によって受け入れた財産であって、当該財産を交付した者の定めた使途に充てるために保有している資金、と定義付けられます。

    指定正味財産を源泉とする特定資産 = 6号財産
    (果実も含む)

    先日、立入検査に関して対象法人の財務諸表を見たときに、この点がモヤっとしました。
    その法人は、流動資産の預金は持たずに預金はすべて特定資産に計上していました。
    基本財産等の運用益は特定資産の○○積立資産という預金で受けて、事業費・管理費は同じく○○積立資産から払われるのです。
    まさに指定正味財産を源泉とする特定資産です。

    しかし、一般的には多くの法人が流動資産の預金を持っています。
    基本財産等の運用益を流動資産の預金で受けることによって、そこに6号財産が混じってしまったらどうなるのか?
    そんな場合でも、指定正味財産を源泉とする部分は6号財産として認めてくれるのか?

    いえいえ、そんなことはあり得ません。
    指定正味財産を源泉とする限り、特定資産の預金として扱うのです

    • 基本財産として計上されている有価証券(1号財産)の配当金で、事業を実施する。
    • 受取配当金は、指定正味財産増減の部において収益計上する。
    • 事業費・管理費に見合う額を、正味財産増減計算書において、指定正味財産から一般正味財産へ振替える。
    • 配当金の額の方が多く資金が余った(指定正味財産増減の部で利益が出た)場合は、同額を特定資産として扱うため、6号財産に該当する。

    流動資産の預金に6号財産が混じるということは、指定正味財産増減の部において収益計上していないと推定されるので、あり得ないのです
    行政と議論して、スッキリしたのでした。

    ただし、果実としての特定資産がたまり続けることは公益事業を実施する上で好ましいことではないため、一定の制限が課されています。

    6号財産の蓄積制限に関しては、こちらを参照してください。

    公益法人において積み上がった6号財産のすべてが、遊休財産額を算定する際の控除対象財産となるか

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    公益法人の正味財産増減計算書が活動計算書に変わったら、どうなる? https://matsui-jicpa.net/activity-statement/ https://matsui-jicpa.net/activity-statement/#respond Wed, 23 Jun 2021 01:39:48 +0000 https://matsui-jicpa.net/?p=4634 内閣府公益認定等委員会は、公益法人制度の運用の一環として委員会の下に「公益法人の会計に関する研究会」を設けて、実務上生じている諸々の課題について検討を行っています。
    毎年度報告書が公表されていますが、令和3年3月19日付けの「令和2年度報告」で検討されている「活動計算書の名称変更に伴う内容の変更」について、ご紹介します。

    「研究会」は、「令和元年度報告」において正味財産増減計算書を活動計算書に変更する方向性を決めていました。
    名称のみならず内容の変更も行うか否か、が「令和2年度報告」での論点です。
    その結果、内容の変更を行うことが決まりましたが、事柄の大きさを考慮し、中長期に検討を進めていくことになります。

    指定正味財産から一般正味財産への振替の会計処理

    公益法人会計基準では、指定正味財産を財源とする資産について使途の指定が解除されるとき、正味財産増減計算書において指定正味財産増減の部から一般正味財産増減の部の収益へ振り替えて、一般正味財産増減の部の費用と対応させます

    「令和2年度報告」では、振替の会計処理を廃止する方向で検討すべきであると結論付けました。
    収支相償や遊休財産規制に影響を与える問題であり、振替処理を純粋に会計の問題として扱うことは困難であることが、背景にあります。

    振替処理を廃止するとはいうものの、「表示面で工夫をする」と説明することの方がわかりやすいと思われます。
    現行の正味財産増減計算書では、一般正味財産増減の部と指定正味財産増減の部を縦方向に並べているため、両者間で数字を移動させたい場合には、振替という形でしか対処することができません。
    しかし、後で活動計算書の様式例を示しますが、並べ方を横方向に変えてしまえば、振替という処理をしなくてもビジュアル的に移動を示すことができます。

    振替処理を行わないとする場合の一般正味財産・指定正味財産の概念の違い

    「令和2年度報告」では、従来の純資産(正味財産)を一般正味財産及び指定正味財産に区分してきたことを尊重しつつ、拘束純資産・非拘束純資産の概念を作る方向で検討すべきというのが、多数意見でした。

    寄付者等の意思により使途について制約が課されている資産を受け入れた場合に、正味財産増減計算書上、指定正味財産増減の部において収益計上します。
    これが指定正味財産を構成します。

    今回、別の新しい概念として「拘束純資産」を作りました。
    拘束純資産 = 指定正味財産 + 法人の機関決定により使途の制約が課されたもの

    一般正味財産 指定正味財産
    非拘束純資産 使途の指定のない資産として受け入れたもの
    拘束純資産 法人の機関決定により使途の制約が課されたもの 使途の指定のある資産として受け入れたもの

    しかしながら、振替の会計処理も指定正味財産・拘束純資産という概念も深い問題であり、継続的な検討が必要とされます。

    指定正味財産と使途拘束純資産の定義の相違を反映した活動計算書のひな型

    活動計算書の検討に当たって、様式例Aと様式例Bの二つが示されています。

    様式例Aでは、一般純資産の部と指定純資産の部に分け、さらに指定純資産の部を機関決定による使途拘束と資源提供者による使途拘束に区分されています。

    また、様式例Bでは、一般純資産の部と指定純資産の部に分け、さらに一般純資産の部を非拘束純資産と拘束純資産に分け、指定純資産の部は拘束純資産から成っています。
    つまり、拘束純資産を様式例Bでは一般純資産の部とするのに対し、様式例Aでは指定純資産の部となります。

    活動計算書の様式は、様式例A・B以外にも検討の余地があります。
    また、改正の趣旨からは、BよりもAが整合するため、様式例の記載はAだけにとどめておきます。

    なお、経常費用で示されている「公1事業費」は、機能別区分を想定しています。
    そして、形態別に区分した費用を注記することを考えています。
    これに関しては、また、別の機会に取り上げようと思います。

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    基本を学ぼう!社会福祉連携推進法人 https://matsui-jicpa.net/social-promotion/ https://matsui-jicpa.net/social-promotion/#respond Mon, 14 Jun 2021 05:54:12 +0000 https://matsui-jicpa.net/?p=4585 人口動態の変化や福祉ニーズの複雑化・複合化の中で、社会福祉法人は、運営基盤の強化を図るとともに、さまざまな福祉ニーズに対応することが求められています。

    社会福祉連携推進法人は、地域共生社会の実現に向け、地域ニーズに対応した新たな取組の創出、その担い手となる福祉・介護人材の確保・育成等を進めていく観点から、地域の福祉サービス事業者間の連携・協働のためのツールとして有効に活用されることが期待されます。

    「社会福祉連携推進法人の運営の在り方等に関する検討会」が提言した内容をわかりやすく解説します。

    社会福祉連携推進法人の概念

    社会福祉連携推進法人は、①社員の社会福祉に係る業務の連携を推進し、②地域における良質かつ適切な福祉サービスを提供するとともに、③社会福祉法人の経営基盤の強化に資することを目的として、福祉サービス事業者間の連携方策の新たな選択肢として創設される法人です。

    2以上の社会福祉法人等の法人が社員として参画し、その創意工夫による多様な取組を通じて、地域福祉の充実、災害対応力の強化、福祉サービス事業に係る経営の効率化、人材の確保・育成等を推進します。

    社会福祉連携推進法人の運営上のポイント

    ポイント

    ○ 社会福祉連携推進区域(業務の実施地域。実施地域の範囲に制約なし。)を定め、社会福祉連携推進方針(区域内の連携推進のための方針)を決定・公表

    ○ 社会福祉連携推進業務の実施(6業務の中から全部又は一部を選択して実施

    ○ 上記以外の業務の実施は、社会福祉連携推進業務の実施に支障のない範囲で実施可(社会福祉事業や同様の事業は実施不可

    社員からの会費、業務委託費等による業務運営(業務を遂行するための寄附の受付も可)

    ○ 社員である法人の業務に支障が無い範囲で、職員の兼務や設備の兼用可(業務を遂行するための財産の保有も可)

    社会福祉連携推進法人設立の意義

    社会福祉連携推進法人の設立は、既存の連携方策等と比較すると、以下の特徴があると考えられます。

    〇 自主的な連携との比較
    個々の法人の自主性を確保しつつ、法的ルールに則った一段深い連携が可能であること

    〇 社会福祉協議会との比較
    業務の実施区域が限定されていないことから、広範囲での連携が可能であり、また、連携する合意の取れた法人同士で設立ができること

    〇 連携のための法人形態を社会福祉法人とすることとの比較
    社会福祉事業を実施する必要がなく、法人同士の連携業務のために設立ができること

    よって、社会福祉連携推進法人のメリットは、同じ目的意識を持つ法人が個々の自主性を保ちながら連携し、規模の大きさを活かした法人運営が可能となることにあります

    地域医療推進法人との違い

    社会福祉法人は資産の法人外流出が禁止されていることから、出資は行うことができないこととされていることを踏まえ、社会福祉連携推進法人についても、出資を行うことはできません。
    よって、地域医療連携推進法人のように、出資して子会社を持つことはできません

    社会福祉連携推進法人の業務

    社会福祉連携推進法人が社会福祉連携推進業務として実施するこができるのは、以下の6つです。
    地域福祉支援業務、災害時支援業務、経営支援業務、貸付業務、人材確保等業務、物資等供給業務。

    地域福祉支援業務

    「地域福祉の推進に係る取組を社員が共同して行うための支援」は、
    ・ 地域住民の生活課題を把握するためのニーズ調査の実施
    ・ ニーズ調査の結果を踏まえた新たな取組の企画立案、支援ノウハウの提供
    ・ 取組の実施状況の把握・分析
    ・ 地域住民に対する取組の周知・広報
    ・ 社員が地域の他の機関と協働を図るための調整
    等の業務が該当します。

    社会福祉連携推進法人の業務は法律上「支援」となっていることから、原則として、社会福祉連携推進法人自体が主体となって、地域住民等に対し、社会福祉事業その他社会福祉関係の福祉サービスを提供することはできません。

    災害時支援業務

    「災害が発生した場合における社員が提供する福祉サービスの利用者の安全を社員が共同して確保するための支援」は、
    ・ ニーズの事前把握
    ・ BCPの策定や避難訓練の実施
    ・ 被災施設に対する被害状況調査の実施
    ・ 被災施設に対する応急的な物資の備蓄・提供
    ・ 被災施設の利用者の他施設への移送の調整
    ・ 被災施設で不足する人材の応援派遣の調整
    ・ 地方自治体との連絡・調整
    等の業務が該当します。

    感染症等の危機的状況については、「災害」に含まれると解して、災害時支援業務に該当します。

    当該業務の実施に当たって、社会福祉連携推進法人と社員は、常に社会福祉連携推進法人の活動区域内の地方公共団体(認定所轄庁以外の地方公共団体も含む。)と連携し、これらの対策と調和が保たれるよう、努めなければなりません。

    経営支援業務

    「社員が経営する社会福祉事業の経営方法に関する知識の共有を図るための支援」は、
    ・ 社員に対する経営ノウハウ等に関するコンサルティングの実施
    ・ 賃金テーブルの作成等人事・給与システムに関するコンサルティングの実施
    ・ 社員の財務状況の分析・助言
    ・ 社会福祉法人会計に関する研修の実施等適正な財務会計の構築に向けた支援
    ・ 社員の特定事務に関する事務処理の代行
    等の業務が該当します。

    社会福祉連携推進法人が事務処理を代行することは、特定の経営方法を社員間で共有するために、社会福祉連携推進法人が社員へ支援を行うことに該当します。

    したがって、社会福祉連携推進法人は、社員の事務処理を経営支援業務として行うことができます。

    貸付業務

    社会福祉連携推進法人が行う貸付けの基本スキームは、以下のとおりです。

    1. 貸付けの内容に係る当事者間での検討
    2. 各社員の内部機関における意思決定
    3. 社会福祉連携推進方針の認定所轄庁への認定申請
    4. 認定所轄庁による認定
    5. 貸付原資提供社員・社会福祉連携推進法人間で貸付契約を締結
    6. 社会福祉連携推進法人・貸付対象社員間で貸付契約を締結
    7. 貸付けの実行
    8. 貸付金の使用状況の報告

    社員間での貸し付けを、社会福祉連携推進法人を介して行うとイメージしてください。
    資金の出し手を貸付原資提供社員、受け手を貸付対象社員と呼びます。

    貸付金の使途として、施設・事務所に供する建物の修繕・改修や従業員の採用、処遇改善に係る費用を想定されています。

    人材確保等業務

    「社員が経営する社会福祉事業の従事者の確保のための支援及びその資質の向上を図るための研修」は、
    ・ 社員合同での採用募集
    ・ 出向等社員間の人事交流の調整
    ・ 賃金テーブルや初任給等の社員間の共通化に向けた調整
    ・ 社員の施設における職場体験、現場実習等の調整
    ・ 社員合同での研修の実施
    ・ 社員の施設における外国人材の受け入れ支援
    等の業務が該当します。

    社会福祉法第134条第2項に基づき、社会福祉連携推進法人が委託募集をするときは、あらかじめ厚生労働省令で定められた事項を厚生労働大臣(都道府県労働局長)に届け出なければならないこととなっています。

    また、社会福祉連携推進法人が職業紹介や労働者派遣を行う場合は、別途各法令の要件を満たしたうえで、適正な手続により許可を取る必要があります。

    物資等供給業務

    「社員が経営する社会福祉事業に必要な設備又は物資の供給」は、
    ・ 紙おむつやマスク、消毒液等の衛生用品の一括調達
    ・ 介護ベッドや車いす、リフト等の介護機器の一括調達
    ・ 介護記録の電子化等ICTを活用したシステムの一括調達
    ・ 社員の施設で提供される給食の供給
    等の業務が該当します。

    社会福祉法第125条第6号にいう「当該設備又は物資を社会福祉連携推進法人が供給すること」とは、社会福祉連携推進法人が一括調達して社員に供給することのほか、社会福祉連携推進法人が生産して社員に供給することも含みます。

    したがって、社員の施設で提供される給食の供給については、食品衛生法等関係法令を遵守したうえで、社員から社会福祉連携推進法人が委託を受けて、物資等供給業務の一環として行うことが可能です。

    社会福祉連携推進法人のガバナンス

    社員総会、理事会、代表理事及び監事がガバナンスの機関として整備されていることは、社会福祉法人と同様です。
    それとは別に、社会福祉連携推進評議会という機関も準備されていることに、注意してください。

    社会福祉連携推進法人における社員の議決権

    社会福祉連携推進法人の社員の議決権については、社員間の公平性を保ち、適切な運営を担保するため、原則として、1社員当たりの議決権は一つとされています。

    ただし、社会福祉連携推進法人の適切かつ効果的な運営を推進する観点から、以下の要件を全て満たし、社員間の合意に基づく場合は、定款の定めるところにより、原則とは異なる取扱いをすることもできます。

    例外が認められるための要件

    〇社会福祉連携推進目的に照らし、不当に差別的な取扱いをしないこと
     
    〇 社員が社会福祉連携推進法人に対して提供した金銭その他の財産の価額に応じて異なる取扱いをしないこと
     
    〇1の社員に対し、総数の半数を超える議決権を配分しないこと
     

    不当に差別的な取扱い」に該当するものとしては、例えば、
    ・ 特定の法人格であることを理由に議決権の配分を減らす
    ・ 貸付業務の貸付けを受けることを理由に議決権の配分を減らす
    など、社会福祉連携推進業務にあたって社員間に生じる立場の違いを理由に議決権の配分を減らすことなどが考えられます。

    上記「例外が認められるための要件」に該当しない場合であって、社員の社会福祉事業の事業規模に応じて議決権を配分することは、これだけをもって不当に差別的な取扱いとは言えないとされています

    また、社員の過半数は社会福祉法人でなければならないので、議決権行使の場面でもこれを担保するため、社員である社会福祉法人の議決権が総社員の議決権の過半数を占めていなければなりません。

    社会福祉連携推進評議会

    社会福祉連携推進評議会は、社会福祉連携推進法人の業務運営に地域のニーズを的確に反映させるとともに、中立公正な立場から当該法人が行った事業について、社会福祉連携推進方針に照らして評価を行うことなどを目的として設置される機関です。

    社会福祉連携推進評議会の位置づけ

    代表理事の意見具申機関として、代表理事が招集します。

    構成員の要件

    社会福祉連携推進区域の福祉の状況の声を反映できる者を必ず加えなければなりません。

    当該社会福祉連携推進法人が行う業務の内容に応じ、例えば、以下のような団体から推薦を受ける者又は個人等から構成されます。 ・福祉サービスの利用者団体から推薦を受ける者
    ・福祉サービスの経営者団体から推薦を受ける者
    ・学識有識者
    ・介護福祉士・社会福祉士等の職能団体から推薦を受ける者
    ・社会福祉協議会から推薦を受ける者
    ・共同募金会から推薦を受ける者
    ・ボランティア団体から推薦を受ける者
    ・自治会から推薦を受ける者
    ・民生委員・児童委員
    ・福祉・介護人材の養成機関から推薦を受ける者
    ・就労支援機関から推薦を受ける者
    ・商工会議所から推薦を受ける者
    ・地方自治体から推薦を受ける者
    ・その他地域福祉に関して中立公正な立場から意見を述べられる団体から推薦を受ける者

    構成員の員数

    員数は少なくとも3人以上とし、社会福祉連携推進法人が定款で定めます。

    構成員の選任・解任

    構成員の人選を理事会で決議し、社員総会の承認を受けます。
    社会福祉連携推進認定の際に、所轄庁において構成員の選任を確認します。

    構成員の任期

    4年(4年後の定時社員総会の終結のときまで)とし、任期の更新は妨げません。
    自動更新はできません。
    定款で4年を短縮することは、可能です。

    社会福祉連携推進評議会の役割

    社会福祉連携推進評議会は、具体的には、次の3つの役割を担います。

    1. 社会福祉連携推進法人の事業計画へ地域ニーズを反映するための意見具申(3月)
    2. 社会福祉連携推進法人の事業報告に関する評価(3月)
    3. 社会福祉連携推進評議会の構成員の定数を変更する場合の意見具申(適宜)

    上記のほか、新規事業の立ち上げ、既存事業の廃止等、社会福祉連携推進法人の事業運営に関して重大な変更を行う場合、必要に応じ理事会の求めに応じて議論を行うことができるとされています。

    社員総会への報告

    意見具申の内容及び理事会が社会福祉連携推進評議会に諮問を行った際の議事は、社員総会に報告します。

    開催頻度

    社会福祉連携推進評議会の役割の①及び②の議論を行うため、少なくとも年1回以上の開催が求められます。

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