社会福祉法人における関連当事者取引の注記
社会福祉法人の指導監査で計算書類を見る機会が多いですが、「関連当事者との取引の内容」という注記項目は、ほとんどの場合に「該当事項なし」と記載されています。
しかし、本当は該当事項があるにもかかわらず、記載の仕方がわからないから「該当事項なし」としていることがあります。さらには、「関連当事者との取引の内容」が何を指すのかわからない、「関連当事者との取引の内容」が存在するか否かわからない、こともあります。
何をどう書くのか理解して、正しく注記しているか確認してください。
関連当事者取引に係る会計基準等
会計基準にどのように規定されているか、確認します。
1 関連当事者とは、次に掲げる者をいう。
(1)当該社会福祉法人の役員及びその近親者
(2)前項の該当者が議決権の過半数を有している法人
2 関連当事者との取引については、次に掲げる事項を原則として関連当事者ごとに注記しなければならない。
(1)当該関連当事者が法人の場合には、その名称、所在地、直近の会計年度末における資産総額及び事業の内容
なお、当該関連当事者が会社の場合には、当該関連当事者の議決権に対する当該社会福祉法人の役員又は近親者の所有割合
(2)当該関連当事者が個人の場合には、その氏名及び職業
(3)当該社会福祉法人と関連当事者との関係
(4)取引の内容
(5)取引の種類別の取引金額
(6)取引条件及び取引条件の決定方針
(7)取引により発生した債権債務に係る主な科目別の期末残高
(8)取引条件の変更があった場合には、その旨、変更の内容及び当該変更が財務諸表に与えている影響の内容
3 関連当事者との間の取引のうち次に定める取引については、2に規定する注記を要しない。
(1)一般競争入札による取引並びに預金利息及び配当金の受取りその他取引の性格からみて取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引
(2)役員に対する報酬、賞与及び退職慰労金の支払い
会計基準注解の(注22)における関連当事者との取引の内容について財務諸表に注記を付す場合の関連当事者の範囲及び重要性の基準は、以下のとおりである。
(1) 関連当事者の範囲 当該社会福祉法人の役員及びその近親者とは、以下に該当するものとする。
ア 役員及びその近親者(3親等内の親族及びこの者と特別の関係にある者。 なお、「親族及びこの者と特別の関係にあるもの」とは例えば以下を指すこととする。)
- 当該役員とまだ婚姻の届け出をしていないが、事実上婚姻と同様の事情にある者
- 当該役員から受ける金銭その他の財産によって生計を維持している者
- ①又は②の親族で、これらの者と生計を一にしている者
イ 役員及びその近親者が議決権の過半数を有している法人 社会福祉法人の役員のうち、対象とする役員は有給常勤役員に限定するものとする。
(2) 関連当事者との取引に係る開示対象範囲
上記(1)ア及びイに掲げる者との取引については、事業活動計算書項目及び貸借対照表項目いずれに係る取引についても、年間 1,000 万円を超える取引について は全て開示対象とするものとする。
関連当事者取引開示の目的
社会福祉法人から見れば、関連当事者情報を注記するというのは、積極的にしたいとは思わないでしょう。では、なぜ開示しなければならないのでしょうか。
関連当事者との取引を開示するのは、社会福祉法人と関連当事者との取引内容や関連当事者の存在が計算書類にどのような影響を与えているか、計算書類の読者が理解できるように情報提供をすることを目的としています。
一方、忘れてはならないことがあります。
社会福祉法人の理事が当該社会福祉法人と取引する等の利益相反取引をする際には、理事会に当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければなりません(社会福祉法第45条の16第4項により一般法人法第84条を準用)。注意が必要です。
関連当事者取引注記の記載様式
例を掲げます。
サンプル
関連当事者との取引の内容は次のとおりである。
(単位:百万円)
種類 | 法人等の名称 | 住所 | 資産総額 | 事業の内容又は職業 | 議決権の所有割合 | 関係内容 | 取引の内容 | 取引金額 | 科目 | 期末残高 | |
役員の兼務等 | 事業上の関係 | ||||||||||
役員及びその近親者 | 厚生純子 | ― | ― | 農業自営 | ― | ― | 当法人の理事長厚生太郎の近親者不動産の賃借及びそれに伴う差入保証金の差入 | 駐車場の賃借
(注1) |
24 | 事業未払金 | 2 |
差入保証金の差入
(注1) |
12 | 差入保証金 | 12 | ||||||||
役員及びその近親者が議決権の過半数を有している法人 | ㈱谷町食品 | 大阪府大阪市北区 | 82 | 食品販売業 | 当法人の理事長厚生太郎が直接100%保有
|
当法人の理事長厚生太郎が代表取締役を兼務 | 食品材料の購入
|
給食用材料の購入
(注2) |
36 | 事業未払金 | 3 |
取引条件及び取引条件の決定方針等
(注1)不動産の賃借料については、近隣の取引事例を参考に決定しております。なお、賃借料の6ヶ月分の金額を賃借保証金として当期に差入れております。
(注2)㈱谷町食品からの給食材料の仕入価格につきましては、同社が青物市場から仕入れる市場価格をもとに決定しております。
「科目」欄の記載について説明します。ここには、貸借対照表科目名を書きます。
単に期末残高がある場合だけでなく、期末残高がゼロでも期中に関連当事者に該当していた期間の取引金額の科目ごとの合計額が1,000万円を超えれば記載対象になります。
関連当事者取引の把握
関連当事者との取引を適切に開示するためには、経理担当者は、関連当事者との取引として、どのような取引がどれだけの額行われているかを調査して把握しなければなりません。そのためには、社会福祉法人の役員に対して、関連当事者取引の開示の必要性を十分に説明した上で「関連当事者取引調査票」による回答を求めます。役員本人の協力なしには正確な関連当事者の把握は困難です。
経理担当者は「関連当事者取引調査票」の結果を確認・調査するとともに、該当する取引を会計記録から漏れなく拾い出し、集計することで、注記の準備ができあがります。