NPO法人に特有の取引に関する会計処理の解説
NPO法人には、営利企業とは異なる特有の取引が存在します。その処理方法について、NPO法人会計基準 Ⅶ NPO法人に特有の取引等の中で、次のように規定されています。
ここで注意が必要なことは、どんな場合にでも会計処理を求めているのではありません。事業報告書で内容を開示したり、注記による説明も考えられます。
現物寄付の取扱い
受贈等によって取得した資産の取得価額は、取得時における公正な評価額とする。
公正な評価額とは、何を指すのでしょう?
答えは一つではありません。
棚卸資産や什器備品の場合には、定価、店頭価格、処分予定価額等さまざまに考えられます。また、土地、建物の場合には、売買実例価額、鑑定評価額、固定資産税評価額、路線価(土地、)等が公正な評価額です。
会計学的には、再調達価額(同じものを購入するとすれば、いくらで買えるのか)と正味売却価額(売ろうとしたときに、いくらで売れるのか)という、二つのアプローチがありますが、いずれも公正な評価額です。
さらに、忘れてはならないことは、これらの資産を公正な評価額で資産計上した結果、「資産受贈益」が計上されることです。つまり、収益が上がる、ひいては、利益が上がる(当期正味財産増減額が増える)ということです。
「資産受贈益」は、活動計算書上、経常収益の2番目目の大項目である「受取寄付金」の中に表記されます。
税金が掛かるかどうかは、各法人の活動状況によって異なります。
無償又は著しく低い価格で施設の提供等を受けた場合の取扱い
無償又は著しく低い価格で施設の提供等の物的サービスを受けた場合で、提供を受けた部分の金額を合理的に算定できる場合には、その内容を注記することができる。
なお、当該金額を外部資料等により客観的に把握できる場合には、注記に加えて活動計算書に計上することができる。
まず、原則的な処理方法をおさえてください。
会計上は何もしないで、事業報告書で内容を開示することが原則です。
しかし、提供を受けた部分の金額を「合理的に算定できる場合」には、注記することができます(任意記載)。さらに、当該金額を「客観的に算定できる場合」には、活動計算書に計上することができます(任意記載)。
ここで、「合理的」とは、財務諸表作成者が利用者に対してその金額評価の根拠について十分説明可能な程度の水準にあることを意味し、「客観的」とは、「合理的」よりも厳しく、誰でもが入手できる具体的な外部資料(利用者も検証が可能な資料)が存在する水準のことを言います。
例を挙げます。
会議室を無償で借りた際に、使用した時間や広さを正確に記録し、過去において同様な地域、規模、設備等の会議室を借りた際の1㎡当たりの単価を参考にして見積もった単価で金額換算するのが「合理的」な場合であり、同会議室がweb等で一般に公開されている料金表をもとに計算するのが「客観的」な場合です。
次に、会計上の基本的な考え方を説明します。
無償又は著しく低い価格で施設の提供等の物的サービスを受けた場合というのは、現金による受取寄付と変わらないので、金額換算して財務諸表に表現することを望む団体のために、条件付きの選択肢として設けられたものです。望まない団体は、従来どおり、事業報告書で事実や恩恵等を表示すればよいのです。
最後に、当該金額を「合理的」あるいは「客観的」に算定できる場合の処理方法は選択適用が認められているので、どの会計処理方法を採用したのかについて重要な会計方針として注記する必要があります。
金額換算の額、その内訳(日数、時間数など数量や換算に使用した単価等)、算定の方法を記載してください。
ボランティアによる役務の提供の取扱い
無償又は著しく低い価格で活動の原価の算定に必要なボランティアによる役務の提供を受けた場合で、提供を受けた部分の金額を合理的に算定できる場合には、その内容を注記することができる。
なお、当該金額を外部資料等により客観的に把握できる場合には、注記に加えて活動計算書に計上することができる。
25項の【無償又は著しく低い価格で施設の提供等を受けた場合の取扱い】の延長線上の事象です。
25項は「施設の提供等の物的サービス」でしたが、26項は「活動の原価の算定に必要なボランティアによる役務の提供」について、規定しています。
会計上は何もしないで、事業報告書で内容を開示することが原則です。
しかし、「活動の原価の算定の必要がある場合」で、提供を受けた部分の金額を「合理的に算定できる場合」には、注記することができます(任意記載)。さらに、当該金額を「客観的に算定できる場合」には、活動計算書に計上することができます(任意記載)。
「合理的」、「客観的」の意味は先ほど説明しました。ここでは「活動の原価の算定の必要がある場合」について説明します。それは、NPO法人の活動の原価を算定するときにどうしてもボランティアの労力を評価しないと不合理と判断される場合を言います。言い換えれば、事業の実施に当たって、金銭を支払っても必要とされる範囲のボランティアのことです。
したがって、単に組織内部の日常的な管理業務を行うためのボランティアは該当しません。
「活動の原価の算定に必要なボランティア」は、例えば次のとおりです。
- 国際会議やイベントでの通訳ボランティア
- パソコン教室の講師ボランティア
- ホームページの作成・更新のためのITスキルを持ったボランティア
そもそも26項の背景として、ボランティアの労力を金額評価しないことにより、NPO法人の真の活動規模が過小評価されている、という問題がありました。
事業活動の大部分をボランティアによって支えられており、有給の職員は管理業務だけを行っているNPO法人の場合は、一見するとまるで事業をほとんど行っておらず、管理業務だけにお金を使っていると見られてしまう弊害です。
注記の記載例や活動計算書の記載例は、「NPO法人会計基準のQ&A」を参考にしてください。
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