社会福祉法人は会計基準変更以前から競争状態にあった
以前の松井公認会計士事務所HPにおいて、社会福祉法人は社会福祉法人会計基準の改正によって競争の時代を迎えると述べました(現在のHPは変更後のものです)。
『単に「会計の基準」が変わるのでなく、法人経営に重要な影響を与えるのである。』と。
社会福祉法も改正され、その思いを強くしていますので、改めて社会福祉法人運営の在り方について記します。
社会福祉法人会計基準の基本的な考え方
- 社会福祉法人が行うすべての事業(社会福祉事業、公益事業、収益事業)を適用対象とする。
- 法人全体の財務状態を明らかにし経営分析を可能にするとともに、外部への情報公開にも資するものとする。
- 新基準の作成に際しては、既存の社会福祉法人会計基準、指導指針、就労支援会計基準及びその他会計に係る関係通知、公益法人会計基準(平成20年4月)、企業会計原則等を参考とする。
平成27年以前は、社会福祉法人は社会福祉法人会計基準を適用することを原則としつつも、社会福祉事業の分野別にさまざまなルールが存在し、それに基づいて実務は成り立っていました。
会計ルールを一本化し、法人全体の経営実態を明らかにすることが、社会福祉法人会計基準改正のポイントです。
社会福祉法人会計基準変更の影響
改正後の社会福祉法人基準が適用されれば、法人全体の財政状態や経営成績が明らかになります。また、それらは公開されます。
換言すれば、“外部の人が財務内容を社会福祉法人間で比較することが可能になる状況”が生まれるのです。
そうなれば、利用者や地方自治体から選別されます。
「A法人は、利用者が大勢いるはずなのに赤字になっている。」
「B法人は、やけに役員報酬が多いな。」
「C法人は、D法人と同じ規模なのに、どうして人件費がこうも違うのだろう?」
逆に考えてみてください。
“経営分析”をできるようにするために、会計基準を変えるのです。
全ての法人、全ての事業に同じ会計基準を適用範囲する本質的な意味は、法人間あるいは拠点区分間での比較を可能にするためなのです。
法人運営の在り方として、“効率的な経営”を行い、“経営分析”に力を入れることが重要になってくるのです。
「会計基準の変更」を「経営改善の契機」と捕らえなければ、“淘汰の波”に飲み込まれてしまいます。
社会福祉法人競争時代の到来
既に“社会福祉事業の担い手として適切だろうか?”という視点での競争が始まっています。
実は「既に」の意味は、平成27年の社会福祉法人会計基準改正時ではなく、平成12年の介護保険導入時と考えることができます。当時から、環境の変化に対応した法人運営の必要性が言われていました。
その内容をまとめたものが下の図です。
環境 | 必要な法人運営 | 解決の視点 |
新しい利用制度の導入 ニーズの高度化 新しいニーズの出現
|
利用者本位の質の高いケアを実現するための人材の確保・養成 地域のニーズを漏れなくつかむ仕組みづくり |
経営基盤の強化 |
ハード面の支援は減少傾向 報酬も減少傾向
|
補助金を前提としない事業計画 メリハリをつけたコストマネジメント |
|
経営主体の多様化 営利法人等の算入
|
サービスの差別化 社会福祉法人でなければできないサービスの提供 |
社会福祉法人の 公益性の体現 |
「必要な法人運営」とは、社会福祉法人も事業者であることを意識することに他なりません。これを主体的な経営といいます。
「主体的な経営」とは、例えば、以下のような施策を実施することを意味します。
- 経営理念、将来展望を持つ(短期や中長期の経営計画の作成、補助金等を前提としない事業運営を考える)。
- 人材の質こそサービスの命であると強く意識し、人材マネジメントを経営の中核に置く。
- ガバナンス(理事会や評議員会等の法人本部機能)の強化と実効的な経営判断をするための権限と責任を明確化する。
この内容は、なんと現在のすべての社会福祉法人に当てはまるではありませんか。
ということは、この20年ほどの間、求められる変革が十分に実施されて来なかったというわけです。しかし、状況は刻々と変化しています。
平成27年の社会福祉法人会計基準の改正、平成28年の社会福祉法の改正を経て、社会福祉法人の改革は“待ったなし”です。
競争を勝ち抜くためには
現在の社会福祉法人の数は多すぎるのではないか、といわれています。社会福祉法人の運営者は、常に競争状態にあることを意識しなければなりません。競争の後には“淘汰”が待ち受けています。
生き残るためには、将来展望を明確にすることです。
先ほどの図の「解決の視点」に挙げた「公益性の体現」のためには、次のような取組が必要です。
- 地域における多様なニーズへの漏れのない取り組み
- 社会的ニーズが存在するが採算の取れない事業(社会福祉法人でなければ継続的に実施できない事業)への取り組み
- 現場の創意工夫を活かした先駆的な取り組み
ご覧のように現状維持の運営では、ジリ貧に陥ってしまいます。
変わらなければ、生き残れません。
事業内容(何をやるか)しかり、事業方法(どうやるか)しかり。
社会福祉法人における公認会計士の利用
新しい事業を絶えず意識することは、競争に勝ち残るための一つのアプローチです。これとは別のアプローチもあります。効率化を図ることです。
何も人員削減を言っているのではありません。事業の進め方を見直すことが大切なのです。
社会福祉法の改正で、大規模法人には外部監査が義務付けられました。
平成29年度が初年度ですから、その結果を集計・分析したもの間もなく公表されるでしょう。公認会計士・監査法人による会計監査は、行政による指導監査とは違いはるかに長い時間をかけ、計算書類の作成プロセスまで遡って評価し、計算書類の適正性を判断します。
内部統制について、中小企業における資産管理を題材に不正を考えた事例があります。
そっくりそのまま、社会福祉法人にも当てはまります。
考えてみてください。出納業務(お金を扱う人)と経理業務(帳簿をつける人)の双方を同じ担当が実施していれば、不正のリスクが高まるのは当然なのです。
それを防ぐにはどうすればよいのか。
職務分掌をしっかりと行うことです。「人手がないから無理だ。」で済ませないで、可能な代替的方法を考えなければなりません。
業務の効率化の一つとして、内部統制を公認会計士とともに検討する。これは、法人運営にとって有意義になると思います。
会計監査の中で内部統制を引き合いに出しましたが、監査とは切り離して内部統制だけを検討することもできます。ただ注意すべきは、内部統制の検討は、上場企業の監査において内部統制監査の経験のある公認会計士に任せるべきです。
「法定されていないけれど任意で公認会計士監査を受けようかな。」
「監査は受けないけれど業務の見直しを一緒になってしてもらいたい。」
「問題点は自分で洗い出すので解決策のアドバイスだけをもらおうか」。
状況に応じて、さまざまな対応の仕方があろうかと思います。
業務改善によって得られるメリットを考えたら、公認会計士への報酬なんて安いものです。