社会福祉法人指導監査において指摘することが多い3つの項目
私は、いくつかの市の非常勤職員として指導監査に同行して、会計分野の監査を担当しました。これを機に、昨年度の指導監査を振り返ってみます。
当日は、市の担当者(法人の規模に応じて2名から5名)と伴に監査対象の社会福祉法人に伺い、丸一日かけて分担して作業を進めます。特に重苦しい雰囲気もなく、淡々と作業が進んで行きます。ただ、応対していただく法人側の担当者が限られるので、質問をしたいけれどタイムリーにできないという状況になります。
では、私の経験から他の社会福祉法人にも参考にしていただきたいことを、思いつくままに述べていきます。
寄附金の管理体制
寄附金台帳に記載のある寄附金について、収入計上されていないものがありました。
これは、寄附者に対する領収書(控)、寄附金台帳及び総勘定元帳を相互にチェックしていなかったために起りました。単なる計上もれでした。
社会福祉法人の運営に寄附金が多大な影響を及ぼす場合は少なくありません。それゆえに、資金管理も帳簿管理もしっかり行う必要があります。寄附金申込書も整備してください。
一番重要なことは、寄附金をいただいたら領収書を必ず発行することです。
さまざまな理由をつけてこれを怠ると、後悔することが起こるかもしれません。また、領収書には連番を振るべきです。書き損じた領収書は捨てることなく領収書綴りに綴じ込んであれば、欠番は起りえません。
もし欠番が生じていたら?
不正が行われているかもしれません。
引当金の計上
引当金について、会計処理が必要であるにも拘らず何ら処理されていない場合があります。会計事務所が関与していても、未だに賞与引当金を計上していないなんてことも。
施設運営に関する規則だけでなく、会計に関する規則にも関心を持っていただきたいと感じます。
社会福祉法人では、例えば次の引当金が計上されます。
- 徴収不能引当金
- 賞与引当金
- 退職給付引当金
徴収不能引当金
徴収不能のおそれのある未収金について、回収見込みのない額を徴収引当金として計上します。企業会計でいう貸倒引当金のことです。
賞与引当金
賞与の支給が来年度であるとしても支給対象期間が当年度にかかるならば、当年度負担額を引当金計上する必要があります。
退職給付引当金
過去に一度退職給付引当金を計上したものの、それ以降は計上していない事例がありました。つまり、貸借対照表上の退職給付引当金の額が毎期同額になっています。
退職給付引当金は、従業員の退職給付に備えるため、当事業年度末における退職給付債務及び年金資産の見込額に基づき計上するものです。
毎期、その期の負担額を計上する必要があるのです。
注記の記載
計算書類の注記は、概して説明が不足しています。
「注記事項として、何をどこまで書くべきか」は、別の機会に説明します。平成27年から適用される新社会福祉法人会計基準では、「計算書類の注記」は、従来よりも広く、深く記載することになります。
従来の実務では、「脚注」という形でわずかな内容しか記載されていませでした。それに対して「注記」は、計算書類を作成する上で基本になる事項を言葉で、あるいは数字で説明するものです。計算書類を見る人には、たいへん重要です。
計算書類を作る側の注記に関する意識を変える必要があると感じます。
大規模な社会福祉法人には、公認会計士及び監査法人による外部監査が平成29年度から法定されています。この場合の財務諸表監査は、一日だけで終わる指導監査とは違って本格的なものです。法定監査の対象外の社会福祉法人が会計面での指導を受ける機会は、指導監査を除いてはありません。しかしながら、公認会計士が指導監査に同行するのは、全国でも近畿圏の一部のみです。
私は、本当に「指導」するつもりで指導監査に取り組みます。