社会福祉法人指導監査でよくある指摘事例
社会福祉法人の指導監査による指摘事例は、各所管庁によってまとられたものが、それぞれ公表されています。その中で「あるある」な事例をピックアップし、私の経験を交えて記事にしました。
『他山の石』としてお読みください。
経理規程に定める役職者が理事長から任命されていない
法人における予算の執行及び資金等の管理に関しては、あらかじめ会計責任者等の運営管理責任者を定める等法人の管理運営に十分配慮した体制を確保しなければなりません。
そのために経理規程において業務分担を定め、会計責任者、出納職員、契約担当者等の役職者を理事長が任命します。
それとともに会計責任者と出納職員との兼務を避けるなどの内部牽制に配慮した業務分担、自己点検を行う等、適正な会計事務処理に努めるべきです。
ある法人では、すべての拠点区分(場所を異にします)の出納職員が同一人物でした。
以下のような事例もありました。
- 統括会計責任者が理事長になっている
- 施設長が出納職員、固定資産管理責任者を兼務している
- 会計責任者、出納職員、固定資産管理責任者、契約担当者が同一である
いずれの事例も内部牽制が働いていないため、適切ではありません。
「マンパワーが不足しているので、そんなに多くの役職者を準備できない。」という声も聞きますが、そこは工夫次第でなんとかなるものです。
“一人のひとに任せてしまう”ことを避けるのが、内部牽制のポイントです。
計算関係書類等の様式が会計基準に即していない
計算関係書類や附属明細書は、「社会福祉法人会計基準」、「社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の取扱いについて」に記載されている様式によって作成されなければなりません。
特に、附属明細書は会計ソフトから自動作成されない場合が多いので、計算書類との整合性は慎重に確認してください。
様式を独自にアレンジしている附属明細書を見たことがあります。
恐らく、「社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の取扱いについて」に記載されている様式を記載例程度に考えているのでしょう。
「計算書類との整合性」という場合に最も重要なことは、金額の整合性です。
計算書類と注記で金額が違うとか、計算書類と附属明細書で金額が違う、ということがないように十分注意してください。
とりあえず法人本部拠点区分に計上する
法人本部は法人内の管理業務をするところですから、事業に関するものは法人本部には計上されません。
例えば、以下のような科目を法人本部で計上していないでしょうか。
- 経常経費寄附金収入(収益)
(「寄附の目的が法人のために」となっていれば法人本部での計上は可) - 設備資金借入金償還支出、支払利息支出(支払利息)及び設備資金借入金残高
- 施設整備積立金及び施設整備積立資産
寄附は寄附を受け入れた施設で、借入金及び関連支出(費用)は借り入れた資金を使って事業をしている施設で、施設整備積立金は設備の導入を考えている施設で計上すべきものです。
計上すべき拠点区分を誤ると、拠点区分の計算書類が当該拠点区分の状況を正しく表さなくなってしまいます。
内部取引消去が行われていない
内部取引とは法人内部の取引のことであり、法人全体の計算書類上に表れるものではありません。別の言い方をすると、法人全体の観点で見たときには存在しない取引が内部取引です。
そのために内部取引消去が行うわけです。
しかしながら、内部取引消去ができていない事例をたびたび見かけます。
例えば、A拠点区分がB拠点区分に資金を貸付た場合を考えます(A、B拠点区分ともに社会福祉事業)。
A拠点区分の貸借対照表では拠点区分間貸付金が、一方のB拠点区分の貸借対照表では拠点区分間借入金が計上されます。
ところが拠点区分レベルの一つ上である事業区分レベルで見たときには、社会福祉事業の貸借対照表では拠点区分間貸付金・借入金とも計上されません。もちろん法人全体の貸借対照表でも同様です。
それは内部取引消去が行われるからです。
例を具体的にして、もう一つ挙げます。
就労支援事業を営んでいるある拠点区分において製造した物品を他の拠点区分で給食として消費した場合に、事業区分レベル及び法人全体レベルでは、就労支援事業収益(収入)と給食費(支出)は、内部取引として相殺消去されます。
内部取引のレベル | 内部取引消去の場所 |
事業区分間 | 事業区分間取引により生じる内部取引高は、資金収支内訳表(第1号第2様式)及び事業活動内訳書(第2号第2様式)の内部取引消去欄において相殺消去します。
また、事業区分間における内部取引の残高は、貸借対照表内訳表(第3号第2様式)の内部取引消去欄において相殺消去します。 |
拠点区分間 | 拠点区分間取引により生じる内部取引高は、事業区分資金収支内訳表(第1号第3様式)及び事業区分事業活動内訳書(第2号第3様式)の内部取引消去欄において相殺消去します。
また、拠点区分間における内部取引の残高は、事業区分貸借対照表内訳表(第3号第3様式)の内部取引消去欄において相殺消去します。 |
サービス区分間 | サービス区分間取引により生じる内部取引高は、拠点区分資金収支内訳表(別紙3⑩)及び拠点区分事業活動内訳書(別紙3⑪)の内部取引消去欄において相殺消去します。 |
思うに、内部取引消去が行われない(できない)ということは、内部取引がどのレベルで実施されているのか、その内部取引をどこで相殺消去すればいいのか、正確に理解できていないからではないでしょうか。
契約の手続きが経理規程に即していない
経理規程において、高額な契約は、金額基準により一般競争入札によることを定めているはずです。
しかし随意契約の限度額を超えているにもかかわらず、競争入札が実施されていない場合があります。要注意です。
随意契約は契約方法の特例であり、「競争入札に付することが適当でないと認められる場合」にのみ行うことができます。そして、稟議書に“その具体的な理由”を明記しなければなりません。
参考までに、随意契約が認められる一般的な例を挙げておきます。
- 売買、賃貸借、請負その他の契約でその予定価格が1,000万円を超えない場合
- 契約の性質又は目的が競争入札に適さない場合
- 緊急の必要により競争に付することができない場合
- 競争入札に付することが不利と認められる場合
- 時価に比して有利な価格等で契約を締結することができる見込みのある場合
- 競争入札に付し入札者がないとき、又は再度の入札に付し落札者がない場合
- 落札者が契約を締結しない場合
随意契約にした場合の一般的な事務手続きは、以下のとおりです。
〇仕様書の作成
必要に応じて、仕様書を作成したうえで、見積を依頼します。仕様書作成に当たっては、物品買入等の場合は、品名、品質、形状、寸法卯を記入し、請負業務等の場合は、図面、明細書等で内容をできるだけ明確に記入し、納入(履行)期限についても十分な期間を設定します。
〇見積比較の実施
価格妥当性を判断するため、原則として3社以上から見積を徴収します。特に、随意契約の実施理由を、「① 売買、賃貸借、請負その他の契約でその予定価格が1,000万円を超えない場合」としたときは、下表のように複数の見積徴収が必要です。
【見積を徴収する社数】
契約金額 | 物品買入・印刷・請負業務等 |
一定額超~1,000万円以下 | 3社以上 |
10万円以上~一定額以下 | 2社以上 |
10万円未満 | 1社以上 |
【一定額とは】
契約の種類 | 金額 |
1 工事又は製造の請負 | 250万円 |
2 食料品・物品の買入れ | 160万円 |
3 前各号に掲げるもの以外 | 100万円 |
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