いち早く公益法人会計基準見直しの具体的内容をお届け!
2024年5月に『令和5年度 公益法人の会計に関する諸課題の検討状況について』が公表されました。財務諸表読者の「わかりやすさ」に重点を置いて、公益法人会計基準の見直しを検討しています。
その内容を簡単明瞭にまとめました。スゥーと頭に入るはずです。
全体的枠組み
現在、本来であれば会計基準として整理されるべき過去の「会計研究会」の報告の内容や、「公益法人制度等に関するよくある質問(FAQ)」(以下「FAQ」という。)での公益法人会計基準の規定を補完するような記載が、会計基準とは別の文書として存在し、準拠する規範が明確ではありません。
今般の制度改革に伴い、ガイドライン、「FAQ」等については全面的に見直しを行い、法令の運用に関する考え方はガイドラインに集約する方向で検討されます。
また、過去の研究会の報告のうち実務上規範性があると考えられるものや、「FAQ」のうち会計処理に関する規範を示していると考えられるものについて、新会計基準の体系にその要素を反映、移管されます。
貸借対照表
「使途拘束」の有無による区分、「指定純資産」と「一般純資産」の区分
平成20 年会計基準においては、資源提供者による使途拘束のある純資産を「指定正味財産」とし、それ以外を「一般正味財産」として区分しています。
今般創設される「公益充実資金」(特定費用準備資金及び資産取得資金を統合した概念)や「控除対象財産」については、財務諸表において一定の情報開示がなされるよう区分が必要です。次のように整理されました。
〇「使途拘束」の概念は、資産の区分概念と位置付けます。
すなわち「法令に基づく控除対象財産としての位置付けを有する、内部資金の積立て又は外部の資金提供者により使途を指定された資源により得た資産に課された使途の制限」と定義します。
〇純資産については、従来の指定正味財産及び一般正味財産の区分を踏襲した「指定純資産」と「一般純資産」の区分を行います。
固定資産における基本財産及び特定資産の区分
現行の貸借対照表では、固定資産を基本財産、特定資産及びその他固定資産に区分されます。この区分は公益法人会計特有の考え方です。
今般の制度改革では、財務諸表本表においては、資産の形態に基づいて流動固定を区分し、基本財産・特定資産の区分は必要に応じて注記で開示することになります。
貸借対照表内訳表
今般の制度改革により、公益法人には区分経理が原則として義務付けられます。
一方で「改正法」において、収益事業等を実施しない公益法人について区分経理の適用除外規定が設けられたほか、新制度施行後一定期間の経過措置を設ける方向で検討が進められています。
こうしたことを踏まえ、貸借対照表内訳表について、財務諸表本表としての内訳表ではなく注記事項と位置付けられることになりました。
活動計算書(従来の正味財産増減計算書)
新公益法人会計基準では、「正味財産増減計算書」の名称は「活動計算書」と変更することとし、その記載内容についても見直されます。
活動計算書本表では、公益法人全体としての純資産の増減内容を「経常活動区分」及び「その他活動区分」に分けることとし、一般純資産、指定純資産の財源別区分は活動計算書本表ではなく注記により開示されます。
なお、現行の形態別分類による情報については、財務規律における費用の適正性を判断する上で重要な情報であることから、法令の要請に基づく開示情報として、注記により開示されます。
財務諸表に対する注記
貸借対照表の内訳情報
①会計区分別内訳
「改正法」による区分経理義務に対応する、貸借対照表の会計区分毎の金額についての注記であり、現行の貸借対照表内訳表の代替として、公益目的事業財産の現況を開示し、「財産残額」の算定の基礎となる情報を提供します。
②資産及び負債の状況
現行の財産目録に相当する情報を提供するものです。
使途拘束資産に該当する資産については、当該注記において表示することを想定しています。
③使途拘束資産の内訳と増減額及び残高
貸借対照表における資産の形態に基づく流動固定分類表示を補完するための情報であり、法令に基づく控除対象財産としての位置付けを有する、内部資金の積立て又は外部の資金提供者により使途を指定された資源により得た資産(使途拘束資産)の内訳を示す注記です。
活動計算書の内訳情報
①財源区分別内訳
現行の正味財産増減計算書における一般正味財産増減と指定正味財産増減の区分表示の代替として、財源区分別の内訳情報を注記します。
当該注記に関連して、以下の点について検討が行われました。
ⅰ 振替処理の見直し
公益法人会計基準においては、「平成16年会計基準」以来、指定正味財産を財源とする資産について使途の指定が解除されるとき、正味財産増減計算書において指定正味財産の部から一般正味財産の部の収益に振り替えて、一般正味財産の部において費消する取扱いとされています。これを振替処理と呼びます。
財源区分別内訳を表示する当該注記において、現行の振替処理は廃止されます。
なお、振替処理の廃止は、公益法人における収益・費用の考え方を変更するものであり、会計実務への影響が大きいことから、中期的収支均衡(現行の収支相償)の判定など、実務上の取扱いについて引き続き十分な検討・整理を行い、公益法人に十分周知されることが重要です。
ⅱ 経常活動区分・その他活動区分
現行の正味財産増減計算書では、公益法人の通常の事業活動の結果を表示する一般正味財産増減の部は経常増減の部及び経常外増減の部に区分されている一方、指定正味財産増減の部は区分されていません。
当該注記では、一般純資産の部と指定純資産の部を並列表示することにより、一般純資産の部だけでなく指定純資産の部においても、経常活動及びその他活動に区分しています。
ⅲ 6号財産に区分されている果実
公益法人が保有する財産から生じる果実のうち、公益認定法施行規則20第22条第3項第6号に基づいて6号財産(交付者の定めた使途に充てるために保有している資金)に区分されている果実については、振替処理の場合と同様に使途制約の解除時期等が明確でない等の課題があり、公益目的事業で費消されずに残高が積み上がっていくことが懸念されます。
今回の会計基準の見直しに当たっては、公益法人会計基準注解(注6)の「寄付によって受け入れた資産」の範囲を厳格に捉えて、受け入れた資産は指定純資産となりますが、当該資産から生じた果実は、受け入れた資産そのものではないため、指定純資産から除外することが妥当であると考えています。
②一般純資産の会計・事業区分別内訳
従来の正味財産増減計算書内訳表に代えて、活動計算書の会計・事業区分別内訳に関する注記を設けます。
公益目的事業会計における中期的収支均衡を判定するための基礎となる数値を提供する役割を担うことも想定しています。
なお、受取会費や受取寄附金等の配賦の適切性確認のため、経常収益に受取会費等を含む場合には、脚注に配賦基準を記載することになります。
③指定純資産の内訳
当該注記は、①の活動計算書の財源区分別内訳注記を補完するとともに、指定純資産に係る会計区分別内訳情報を提供し、②の一般純資産の会計・事業区分別内訳とともに改正法が要請する区分経理に対応する目的で記載されます。
④控除対象財産(6号財産)の発生年度別残高及び使途目的計画
控除対象財産の6号財産(寄附者等の定めた使途に充てるため保有している資金)については、「使途拘束財産」かつ「指定純資産」に該当し、寄附者等の意思を踏まえ適切な時期に費消されることが予定される財産であるという性格を踏まえた情報開示を行うこととし、その期末残高について、発生年度別に明細を示すことを想定しています。
また、5年を超えて保有している財産については、その使途目的・計画などを記載するようにして、費消予定を明確化することとしています。
⑤事業費・管理費の形態別区分
当該注記は、現行の正味財産増減計算書の形態別表示に相当するとともに、定期提出書類の別表F、Gを代替するものです。
活動計算書における活動別費用を補足する情報であり、現行より記載する科目を集約し、公益法人の判断により特徴となる科目を記載することを想定していますが、共通費用の会計区分別配賦状況を明らかにする観点や、定期提出書類の審査上必要となる科目等の観点から引き続き検討が必要です。
その他の注記(財務規律適合性に関する情報)
財務規律適合性に関する以下の情報について、注記又は附属明細書における開示が行われます。
- 中期的収支均衡に関する情報(定期提出書類の別表Aの代替)
- 公益充実資金に関する情報
- 公益目的事業比率に関する情報(定期提出書類の別表Bの代替)
- 使途不特定財産(現行の遊休財産)規制に関する情報(定期提出書類の別表Cの代替)
- 公益目的事業継続予備財産に関する情報
公益目的事業継続予備財産とは、災害その他予見し難い事由が発生した場合においても、公益目的事業を継続的に行うために必要な限度において保有すべき公益目的事業財産をいいます。
詳しくは内閣府令で規定される予定です。
また、「平成20年会計基準」における既存の以下の注記事項についての見直しや、平成27年度の研究会報告に基づく注記の追加を検討する必要があります。
- 基本財産及び特定資産の増減額及びその残高(基本財産・特定資産の位置付け変更に伴う見直し)
- 基本財産及び特定資産の財源等の内訳(同上)
- 指定正味財産から一般正味財産への振替額の内訳(振替処理の廃止)
- 関連当事者との取引の内容(制度改革における透明性の向上の観点から見直し)
附属明細書
附属明細書については、一般法人法施行規則第33条や公益法人会計基準第6に規定があります。
財務諸表本表を補足する記載として、注記又は附属明細書が予定されていますが、注記については、財務諸表本表の数値を補完する役割を担い、附属明細書については、法令等の要請に基づく詳細な情報を示す役割を担うものと位置付けられます。
上記の附属明細書のイメージにおける記載事項は、注記として記載するべきか、引き続き検討される予定です。
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