公益法人の会計に企業会計基準の変更をどこまで取り込むのか?
『平成27年度 公益法人の会計に関する諸課題の検討結果について』(案)は内閣府公益認定等委員会 公益法人の会計に関する研究会が、平成28年2月に公表した報告書です。公益法人会計基準(「20年基準」)において、既に企業会計基準の内容が取り込まれています。「20年基準」の設定後に、新たに設定されたり、改正された企業会計基準の内容を公益法人に適用すべきか、否かが議論されました。
取り扱いの変わる項目に絞って、その内容を取り上げます。
以下の結論にもとづく新たな措置は、平成28年4月1日開始事業年度から適用してください。ただし、それ以前からの実施を妨げません。
退職給付に関する会計基準(企業会計基準第26号)
この基準は、従業員への退職給付について引当金及び退職給付費用を計上する会計処理として、退職時に見込まれる退職給付総額のうち当期末までに発生していると認められる額を、一定の割引率と予想残存勤務期間に応じて割引計算することによって算定する方法【原則法】について定めています。また、従業員300人未満の小規模企業については、当期末における退職給付の要支給額を用いることも可能です【簡便法】。
この基準は「20年基準」の設定後に改訂されており、改正後の基準が公益法人にも適用されることになります。なお、公益法人の運営上は、【簡便法】が多く採用されているため、実務的な影響はありません。
金融商品に関する会計基準(企業会計基準第10号)
この基準は、「20年基準」の設定後に改訂されており、一般企業では、以下についても注記することになっています。
① 金融商品の状況に関する事項
金融商品の内容やリスク、リスク管理体制等
② 金融商品の時価等に関する事項
金融商品の時価の算定方法に関する説明
公益法人では、以下のように取り扱うことになります。
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金融商品の状況に関する事項
その運用次第では、法人運営に相当のリスクをもたらすおそれがあると法人が判断した場合には、「20年基準」に財務諸表の注記事項として定められた「(17)その他公益法人の資産 (中略) の状況を明らかにするために必要な事項」の一環として、その内容、リスク、リスク管理体制等に関する事項を注記します。 -
金融商品の時価等に関する事項
取り扱いに変更なく、現行のままです。
会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(企業会計基準第24号)
この基準は、会計方針が変更され、又は過去の財務諸表に誤謬が発見された場合、過去の財務諸表に遡及して、新たな会計方針を適用し、又は誤謬を訂正する処理について定めています。これによって、財務諸表利用者への比較情報提供を担保しています。
公益法人では、以下に取り扱うことになります。
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会社等との権衡(けんこう)
会社法監査の対象になっていない会社では、この基準が適用される状況に至った場合、一旦確定済みとなった過去の計算書類(財務諸表と同義)の内容を変更してこれらの法律行為の効力が遡及的に左右されることを嫌い、この基準によらない会計処理が行われることもあります。
また、過去の財務諸表に誤謬が発見された場合、これを修正再表示(過年度遡及修正)するには多くの手間とコストを要します。
この基準が、「一般に公正妥当と認められる会計基準」であることに異論はありませんが、すべての法人にとって唯一の会計慣行になるかどうかについては、今後の動向を見ながら判断することになります。 -
財務諸表の適正性の担保
当年度において過年度損益修正という形で修正しても、財務諸表の将来に亘る適正性は担保されます。また、行政庁への定期提出書類は財務諸表に基づいて作成されているので、過去の財務諸表を修正すると事務的に混乱するおそれがあります。この基準によらない会計処理も、「一般に公正妥当と認められる会計慣行」といえます。
なお、公益法人がこの基準を自主的に適用することは、妨げられません。