公益法人を立入検査して考えさせられる収支相償
移行申請が認定された新公益法人に対して行政庁(内閣府又は都道府県)が実施する立入検査は過年度から始まっていますが、平成26年度より本格化しています。
公益法人は法人運営全般について行政庁の監督下にあるので、確実に立入検査を受けることになりますが、移行法人(従来の特例民法法人から一般社団法人又は一般財団法人へ移行した法人)は公益目的支出計画の実行状況に限定された監督のため、よほどのことがない限り立入検査の実施には至りません。
立入検査は、法令で明確に遵守することを定められた事項に関して、事業の運営実態を確認するという観点から行われます。
この基本的考え方を理解することは、非常に重要です。公益法人としては“調べられる”ことに心理的抵抗が生れることはわかりますが、警戒したり、嫌悪する必要はまったくありません。
また、立入検査は法人運営が適切に行われるようサポートする側面も持っています。困っていることを素直に相談すれば、行政庁は親身に対応してくれます。本当です!
『至らぬところを指導してもらえる。』と思ってコミュニケーションを図ることが得策です。
私は、公益法人への立入検査に同行して、会計分野の検査を担当します。その中で、一番感じることは「財務3基準への法人の理解が十分ではない。」ということです。
財務3基準は、公益法人であるための要件の一つですから、この状況は改善する必要があります。
財務3基準
収支相償(認定法第5条第6号、第14条)
収支相償とは、公益目的事業に係る収益がその実施に要する適正な費用を償う額を超えてはいけないという基準です。
つまり、公益目的事業は(中長期では)儲けを出さないこと。
公益目的事業比率(認定法第5条第8号、第15条)
公益目的事業比率とは、公益目的事業の費用が法人全体の費用の50%以上でなければならないという基準です。
つまり、公益目的事業が公益法人のメインの事業であること。
遊休財産額保有制限(認定法第5条第9号、第16条)
遊休財産額とは、公益法人が保有する財産のうち、公益目的事業または公益目的事業に必要なその他の業務等に使用されていない財産の額をいいます。この遊休財産額が1年分の公益目的事業の費用を超えてはいけません。
つまり、公益目的事業と関係のない財産を多く持たないこと。
収支相償
財務3基準の中で実務上対応に苦慮するとしたら、収支相償の問題です。
公益法人の会計は、ア 公益目的事業会計、イ 収益事業等会計、ウ 法人会計の3つの区分に分けられます。
「ア 公益目的事業会計=赤字、イ 収益事業等会計=黒字、ウ 法人会計=ちょい黒、ア+イ+ウ=黒字」
というのが、理想的な姿です。
しかし、公益目的事業しか実施していない法人や収益事業等の黒字がきわめて小さい(ゼロ、あるいは赤字の場合も同様)法人も存在します。その場合に、どのような対応が必要になるか、次のケースで考えてみます。
公益目的事業会計=黒字、法人会計会計=赤字の場合の収支相償
事例を検討する前に整理しておくことがあります。
法人会計が黒字になることの是非
事例検討の前に「法人会計が黒字になるのはいけないことだ。」という意見について考えます。
この意見は、『実際に事業を実施せずに法人全体の管理費を負担させる部門となる「法人会計」が黒字になることはありえない。』と想定しているがゆえに主張されると思われます。しかし、よく考えてみてください。収支相償ですから、公益目的事業は赤字が大前提です。収益事業等を実施しておらず、その上法人会計も赤字になれば、法人全体は大赤字になってしまい、継続的な法人運営ができなくなってしまいます(何年か先にはつぶれてしまいます)。
法人会計だけに目を奪われずに、法人全体を捉えなければなりません。
私は、法人会計が黒字になること自体に、問題はないと考えます。
事例の検討に戻ります。
収支相償に反して「公益目的事業が黒字」という状況は起りえます。一方、法人会計に計上される収益が管理費を賄いきれなければ、法人会計は赤字になります。
「ア 黒字+ウ 赤字=黒字」という場合です。
収支相償を満たすために公益目的事業を赤字にしたいけれど、そうすれば法人全体が赤字になってしまうかもしれないという、ジレンマが生じています。
この場合には、特定費用準備資金(将来の特定の活動の実施のために特別に支出する費用に係る支出に充てるために保有する資金)の積立を検討することが、まず考えられます。
ただし、特定費用準備資金であるための要件は次のとおりです。
- 資金の目的である活動を行うことが見込まれること。
- 資金の目的毎に他の資金と明確に区分して管理され、貸借対照表の特定資産に計上していること。
- 資金の目的である支出に充てる場合を除くほか、取り崩すことができないものであること又は目的外で取り崩す場合に理事会の決議を要するなど特別の手続きが定められていること。
- 積立限度額が合理的に算定されていること。
- 特別の手続きの定め、積立限度額、その算定根拠について事業報告に準じた備置き、閲覧等の措置が講じられていること。
次に考えるべきことは、現在の収益計上の在り方です。
どういうことかと言えば、公益目的事業上の収益が何で構成されているかを十分に吟味することです。抽象的な表現ですが、個別にご相談をいただけばその状況に応じて具体的にお答えします。
公益目的事業会計=赤字、法人会計会計=赤字の場合の収支相償
問題なのは、「ア 赤字+ウ 赤字=赤字」という場合です。
この場合には、収支相償だからといって公益目的事業の赤字を放っておくわけにはいきません。公益目的事業の赤字額をきちんと管理する、換言すればゼロに近づける必要があります。
赤字をできる限り小さくするために、どのような施策を実施して公益目的事業上の収益を上げるか、公益目的事業費をカットできるものはないか、等を具体化して利益計画を作成しなければなりません。そして、計画と実績の差異を精緻に分析した上で、さらにその対応策を法人内部で協議すべきです。
この作業は一朝一夕にできるものではないので、今すぐにでも取組を始めることが重要です。
ガバナンス
立入検査では会計分野以外にもガバナンスや事業の実施状況も確かめます。
・決算承認理事会と評議員会が中14日間開いていない。
・理事会議事録の不備(監事の出席状況、記名捺印なし、未製本等)
・公告の未実施
・内部統制の欠陥
・移行認定時から事業を変更している場合の説明の不備
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません