社会福祉法人の制度改革を総まとめ
「社会福祉法人への外部監査の導入」ばかりが気を引きますが、これが社会福祉法人の制度改革の本丸ではありません。
「会計監査を導入すれば、決算書(財務諸表)がキチンとする。」
転じて
「外部監査を導入すれば、社会福祉法人はしっかりする。」
という安易な発想では、制度改革はおぼつきません。
本来、会計監査は、作成者によって正しく作成された財務諸表を、監査人が監査手続きを実施して適正であるか否かに関して意見表明を行うこと、によって成り立っています(二重責任の原則)。監査の過程で正しい数字に直せばよいのではなく、正しい財務諸表を作ることがてきるように法人の体制を変革することが重要なのです。
会計だけの話しでは、ありません。何より大切なことは、ガバナンスの強化です。
法人運営に関して求められることは、一般の企業と同じです。とはいえ、残念ながら社会福祉法人の場合は内部統制の基盤が弱いので、これを法人なりに工夫しながら強化することによって良好な法人運営を目指す、そういう制度改革が必要なのです。
改革を求める意見の中には、一般企業と同様の「ものさし」を導入しようとする声があります。しかし、社会福祉法人は社会福祉法人なりのガバナンスを構築すればよいのではないでしょうか。
まずは、そこからのスタートです。
制度の変更点を以下にピック・アップします。
社会福祉法人制度の理事、理事会
理事、理事長、理事会の位置づけ・権限・義務・責任を明確化
・理事の義務と責任を法律上明記する。
・理事長を代表者として位置づけ、権限と義務を法律上明記する。
・理事会を法人の業務執行に関する意思決定機関として位置づけ、権限と義務を法律上明記する。
理事の構成に関する取扱いを法律上明確化
・同族支配禁止の趣旨を徹底するとともに、社会福祉事業の学識経験者や施設長を理事として参加させる。
社会福祉法人制度の評議員・評議員会
評議員・評議員会の位置づけ・権限・義務・責任を明確化
・評議員会を必置の議決機関として法律上位置づけ、理事、監事、会計監査人の報酬や選任・解任等の重要事項に係る議決権は評議員が持つ。
・評議員の権限・責任として評議員会の招集請求権、善管注意義務、損害賠償責任等を法律上明記する。
・理事と評議員との兼職を禁止する。
定款に定めた方法による評議員の選任
・評議員の選任・解任については定款に定めた方法(選任委員会や評議員会による議決)によることとし、理事又は理事会が評議員を選任・解任できないようにする。
社会福祉法人制度の会計監査人
会計監査人の義務付け
・一定規模以上の法人に対して、会計監査人による監査を法律上義務付ける。
以下の要件のいずれかに該当する法人
- 収益(事業活動計算書におけるサービス活動収益)が10億円以上の法人(段階的に対象範囲を拡大)
- 負債(貸借対照表における負債)が20億円以上の法人
社会福祉法人制度のその他規制
役員報酬の適正化
・定款の定め又は評議員会の決議により、役員報酬は定款の定め又は評議員会の決議により決定する。
内部留保の明確化
・内部留保は利益剰余金、すわわち、過去の収支差(利益)の蓄積であり、その存在自体が余裕財産を保有していることを意味しない。
・純資産から基本金及び国庫補助金等積立金を除き、そこからさらに「控除対象財産額」(事業継続に必要な最低限の財産の額)を差し引いた概念を福祉サービスに再投下可能な財産額として位置づける。
福祉サービスへの計画的な再投下
・いわゆる内部留保額から控除対象財産額を控除したものを「社会福祉充実残額」として、地域における公益的な取組を含む福祉サービスに計画的に再投下する仕組みが導入される。
・社会福祉充実残額のある社会福祉法人に対し、社会福祉事業又は公益事業の新規実施・拡充に係る計画(「社会福祉充実計画」)の作成が義務付けられる。
再投下の具体的な事業内容は以下のとおり
- 社会福祉事業(利用者負担の軽減措置や小規模事業への投資を含む。)
- 地域公益事業(社会福祉事業として制度化されていない福祉サービスを地域のニーズを踏まえて無料又は低額な料金により供給する事業
- その他の公益事業
・社会福祉充実計画の作成に際しては、国が作成するガイドラインにしたがって適切に記載されているかどうかについて、公認会計士又は税理士による確認を必要とする。
このように、社会福祉法人にはこれまで以上に公益性の高い事業運営が求められているために、従来の法人のあり方を見直す必要があります。
社会福祉法人に対する期待の表れだと思います。