公益法人において資産取得資金の積立方法に問題はないのか
公益法人の収支相償対策として使えるものとして、特定費用準備資金のほかに資産取得資金が挙げられます。
実務的には、資産取得資金は特定費用準備資金ほど浸透していませんが、建物等大きな資産を所有しながら公益事業を運営する法人は、考慮しておく必要があります。
資産取得資金はどのように積み立てるべきなのか、検討を加えます。
資産取得資金とは
まずは、資産取得資金の定義を確認しておきます。
資産取得資金とは、将来に公益目的事業のために資産の取得又は改良が発生する計画がある場合、それに備えて特定化された資金をいいます。そして、資産取得資金は、貸借対照表上の特定資産に計上します。
前二号に掲げる特定の財産の取得又は改良に充てるために保有する資金(当該特定の財産の取得に要する支出の額の最低額に達するまでの資金に限る。)
前二号とは、
一 第二十六条第三号に規定する公益目的保有財産
二 公益目的事業を行うために必要な収益事業等その他の業務又は活動の用に供する財産
特定費用準備資金との相違
特定費用準備資金と資産取得資金は、よく似ています。その対象が特別の費用支出なのか、資産の取得・改良なのか、という点が異なります。
将来の特別な支出額、あるいは将来の特定の財産の取得・改良額を合理的に算定して、現在からその時点までの期間に応じて毎期定額を積み立てて行く、私はそのように理解していました。
特定費用準備資金 | 資産取得資金 | |
要件 | 「規則」第18条第1項から第5項
① 当該資金の目的である活動を行うことが見込まれる。 ② 他の資金と明確に区別して管理 ③ 当該資金の目的である支出に充てる場合を除くのほか、取り崩すことができないものであること又は当該場合以外の取崩しについて特別の手続が定められていること。 ④ 積立限度額が合理的に算定 ⑤ 積立限度額の算定根拠等の備置き、閲覧等 |
「規則」第22条第4項において読み替え準用する第18条第3項
① 当該資金の目的である財産を取得し、又は改良することが見込まれる。 ② 左に同じ ③ 左に同じ
④ 財産の取得又は改良に必要な最低額が合理的に算定 ⑤ ④の最低額の算定根拠等の備置き、閲覧等 |
取崩が必要な場合 | 「規則」第18条第4項第1号から第3号
① 当該資金の目的の支出がなされた場合 ② 各事業年度終了の時における積立限度額が当該資金の額を下回るに至った場合 ③ 正当な理由がないのに当該資金の目的である活動を行わない事実があった場合 |
「規則」第22条第4項において読み替え準用する第18条第4項
① 左に同じ ② 各事業年度終了の時におけるに必要な最低額が当該資金の額を下回るに至った場合 ③ 正当な理由がないのに当該資金の目的である財産を取得せず、又は改良しない事実があった場合 |
収支相償 | 第1段階
収入が費用を上回る場合は、当該事業に係る特定費用準備資金への積立額として整理する。
第2段階 当期取崩額を収入に、当期積立額を費用とする(50%超繰入の場合は、費用とする当期積立額に上限あり)。 |
第2段階(50%超繰入の場合)
当期取崩額を収入に、当期積立額を費用とする(費用とする当期積立額に上限あり)。
なお、第2段階(50%繰入の場合)において、剰余金が生じたときは、公益資産取得資金への繰入をすることで、収支相償の基準は満たされる。 |
しかし、両者を整理していて、私の理解が必ずしも正しくないことに気付きました。
定期提出書類「別表A(1) 収支相償の計算」には、以下のような注書があります。
第二段階における剰余金の扱い
剰余金が生じる場合(収入—費用欄の数値がプラスの場合)は、その剰余金相当額を公益目的保有財産に係る資産取得、改良に充てるための資金に繰り入れたり、・・・しなければなりません。
上の注書(以降、「注書」)の文章からは、剰余金の額=積立額と読むことができます。
つまり、将来の特定の財産の取得・改良に係る計画に関係なく、当期に発生した剰余金の額と同額を来期に資産取得資金として積み立てればよい、というのです。
積立方法の検討結果
「注書」の内容を検討します。
「当期発生剰余金の額を資産取得資金として積み立てれば、収支相償を問題にしない。」というのは、あまりに杜撰な考え方ではないでしょうか。
そこには、計画性がありません。何のために、財産の取得又は改良に必要な最低額を合理的に見積もる必要があるのか、理解できません。単に積立の上限額を知るためでしかありません。また、財産の取得又は改良を行う時期がいつなのか、考慮外に置かれています。
定期提出書類「別表C(4) 資産取得資金」では、過去の積立実積だけではなく、将来の積立見込額を記載することになっています。当然、計画性が求められるわけですが、「注書」とは整合しません。
私は、最近、立入検査において、「注書」のように処理している法人をみました。
先にも述べたように、将来の特定の財産の取得・改良額を合理的に算定して、現在からその時点までの期間に応じて毎期定額を積み立てて行く、ことが理論的であると私は考えています。しかし、「注書」がある以上、法人の処理を頭から否定することはできません。
行政と意見調整した結果、同法人は「毎期定額積立が望ましい」と指導することで、一旦は合意しました。公益等認定委員会への上程前の段階のことです。
しかし、次の立入調査先の資料に目を通していて驚きました。
細かな状況は異なりますが、ここでも概ね「注記」のように処理しているのです。
改めてFAQをひっくり返しました。
特定費用準備資金、資産取得資金とも、目的に沿った積立は必要ですが、積立期間内に計画的に積立てる計算までは必要ありません。
収益事業等の利益の50%超を公益目的事業財産に繰り入れる場合には、積立期間内で計画的に積立てる計算が必要になります。
つまり、特定費用準備資金及び資産取得資金の積立に関して計画性を求めるのは、50%超の利益繰入の場合のみと規定されているのです。
資産取得資金や特定費用準備資金の積立方法は、会計の問題ではありません。積立額及び取崩額を正味財産増減計算書に計上するわけではないからです。
今回、特定費用準備資金及び資産取得資金という概念自体が会計理論に裏付けされたものではなく、収支相償の救済策としてしか位置づけられていないのだと強く認識しました。
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