同族会社における資本取引・自社株式承継・清算のポイント
同族会社においては、資本取引や自社株式承継策、清算を実施するときに、税務上の問題が発生することがあります。それは、発行会社のことだけではなく、株主のことも考えなければならないからです。
ポイントをまとめましたので、参考にしてください。
同族会社における資本取引のポイント
近頃、同族会社においても行政上の許認可の必要性から増資をするケースや、事業承継スキームの一環として自己株式を取得する等資本取引が活発に行われるようになってきました。
増減資、自己株式の売買は資本取引ですので、発行会社においては、原則として課税関係が生じることはありません。しかし、株主側には、みなし譲渡やみなし配当の問題が生じることが考えられます。
☆ 株主割当増資の際に生じた失権株を既存株主の親族等に割り当てた場合や失権株につき再募集をすることなく打ち切った場合に、既存株主と引受株主とが親族関係にあるときは、贈与税の課税問題が生じます。
☆ 現物出資により受け入れた資産の価額が過小に評価された場合、会計上は、その評価額が受入資産の取得価額になります。
税務上は、時価を取得価額とし、受入価額と時価との差額に相当する金額は資本金等として取り扱います。
☆ 会社法上の減資は単に資本金の額を減少させる行為であるため、有償減資を行う場合には、資本金の減少と剰余金の配当という2つの手続をする必要があります。
☆ 有償減資及び自己株式の取得は、会社側においては資本等取引であるので原則として損益には関係しませんが、払戻額のうち資本金等の額を超える部分についてみなし配当課税の対象になります。
株主側においては、みなし配当以外の金額については株式等に係る譲渡所得の収入金額とみなされます。
☆ 自己株式の処分は、税務上、その処分が適正な価額で行われている限り資本等取引として処分価額が資本金等の額に加算されます。
☆ 自己株式の消却は、自己株式を取得した時点で資本の払い戻しとして取り扱っているため、利益積立金及び資本等の額に変動はありません。
同族会社における自社株式承継のポイント
同族会社の経営者が自社の株式を後継者へ承継することは、「財産の承継」と「経営権の承継」の二つの意味合いがあります。
「財産の承継」の側面では、税負担の問題に気を付けなければなりません。自社株式承継の具体的な方法には、譲渡、生前贈与及び相続がありますが、いずれも課税の対象になります。特に、生前に何ら承継対策を講じることなく相続が生じた場合には過大な相続税の負担が生じ、後継者が自社株式を保持できなくなることもあり得ます。
「経営権の承継」の側面では、議決権の確保問題となります。一般的に、中小企業においては所有と経営が分離していないため、安定した経営を維持するためには総議決権の2/3以上を確保しておく必要があります。
☆ 譲渡による自社株式承継では、経営者(譲渡人)に課される譲渡所得税の負担を軽減するために著しく低い価額で譲渡した場合には、後継者(譲受人)に贈与税が課されます。
☆ 贈与による自社株式承継では、相続時精算課税による価額固定リスクと暦年課税による相続財産の圧縮メリットを考慮に入れながら、長期計画に基づいて取るべき方法を検討しなければなりません。後継者に課される贈与税の負担を軽減するためです。
☆ 贈与税の納税猶予制度の適用においては、長期的な展望に立って事業継続要件の維持可能性を検討する必要があります。
また、納税猶予の対象となる株式は発行済株式の3分の2が限度であるため、経営者の所有株式をすべて贈与した場合には課税されることがあります。
☆ 相続による自社株式承継では、後継者に課される相続税の納税資金対策として、自社株式の物納、相続税申告期限後3年以内の発行会社への譲渡、納税猶予制度等について検討が有用な場合もあります。
清算のポイント
同族会社に特有の清算手続きはありません。株主総会による解散決議(清算人の選任等も含む)に始まり、税務署・都道府県等への清算結了届の提出まで、法務・税務の手続を確実に実施していかなければなりません。
☆ 会社の解散とは、法人格の消滅原因となる法的手続きです。会社が解散しても直ちに法人格は消滅せず、精算手続きへ移行します。
会社の清算とは、会社消滅までの法律的・経済的関係を後始末する手続きです。財産・債務の整理を行い、残余財産を確定しそれを株主に分配して清算は結了します。
☆ 会社が解散した場合、事業年度開始の日から解散の日までを解散事業年度とし、解散の日の翌日から1年ごとの期間を清算事業年度として、また、清算事業年度の途中で残余財産が確定した場合は残余財産確定の日までを1事業年度とみなして、それぞれ確定申告を行います。
☆ 解散事業年度や清算事業年度における確定申告については、継続企業を前提とした税額控除や特別償却等の適用の可否について注意を要します。
解散すると本来の事業活動はできないため、営業活動の継続を政策的に優遇する観点から設けられた諸制度は適用できません。
☆ 解散事業年度における青色欠損金の繰戻し還付制度については、資本金の額に関係なく適用可能です。
解散事業年度が赤字でその直前期黒字の場合だけでなく、解散事業年度の直前期が赤字でその直前々期が黒字の場合にも適用が認められます。
☆ 平成22年度改正において、清算事業年度における所得計算構造が財産法に基づくものから損益法に基づくものへと変わるとともに、清算事業年度末において残余財産がないと見込まれることを要件として期限切れ欠損金の損金算入制度が設けられました。
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