公益法人への立入検査で指摘することの多い項目ベスト5
私は、公益法人への立入検査に同行して、会計分野の検査を担当しています。立入検査は、法令で明確に遵守することを定められた事項に関して、事業の運営実態を確認するという観点から行われます。従来の公益法人が新公益法人へ移行するための認定申請は平成25年11月末まででしたから、3年に一度を目途に実施される立入検査は、すでに2巡目に入っています。
今までの立入検査において指摘することが多かった項目を、運用面の項目を除いて取り上げます。
立入検査の心構えについては、以下を参照してください。
収支相償
収支相償とは、公益目的事業に係る収益がその実施に要する適正な費用を償う額を超えてはいけないという基準です。つまり、公益目的事業は(中長期では)儲けを出さない、ということです。
収支相償については、これまで何度も発信して来ました。
収支相償は、公益法人の根本であり、非常に重要な問題であるゆえです。実際、立入検査に行ってもこの問題に当たることが多いのです。
公益目的事業が黒字の公益法人
これは、収支相償にストレートに違反するケースです。
そもそも公益法人に収支相償が求められるのは、「公益事業を実施すれば赤字になるでしょう。」という前提があるからです。換言すれば、「事業を実施して黒字化するならば、公益法人としてではなく株式会社等の普通法人でやってください。」ということです。
それだけ実施事業の公益性が問われているのです。
収支相償は年度ごとに求められるわけではありません。当期、公益事業が黒字になったとしても、来期に事業を拡大することによって公益事業が赤字になれば、それでよいのです。
そのために、特定費用準備資金や資産取得資金という考え方が準備されています。
特定費用準備資金将来に公益目的事業のために費用が発生する計画がある場合、それに備えて特定化された資金
資産取得資金将来に公益目的事業のために資産の取得又は改良が発生する計画がある場合、それに備えて特定化された資金
これらの額は、収支相償の計算において費用の額に含めてよいことになっているのです。
法人全体が赤字の公益法人
これは収支相償の問題ではありません。収支相償を気にするあまり、法人全体が赤字になっていませんか。公益事業の赤字が、収益事業又は法人会計の黒字で補えないとどうなるでしょうか。
当期がたまたま赤字になったというのならよいのですが、法人全体の赤字が継続しているのならば早急に改善を図らねばなりません。
手をこまねいていれば、法人が立ち行かなくなります。
経費按分(費用配賦)
公益法人においては、公益目的事業会計、収益事業等会計、法人会計の区分ごとに損益計算をします。
その過程で、費用を各会計区分に配賦する必要があります。
例えば、支払家賃の場合、公益事業の拠点なのか、法人本部として使っているのか、に応じて公益目的事業会計と法人会計に費用を分けなければなりません。
費用を各会計区分へ配賦するための基準は、毎年度、継続適用することが重要です。
基準を変えないということは、配賦率が変わらないということです。
ところが、実際には、毎期この配賦率が変動する法人が、時々見受けられます。わずかな変動ならば指摘しませんが、大きく変動していれば意図的に各会計区分への配賦額を変えている可能性があります。
移行申請時における配賦の考え方を点検するとともに、事業別損益を明確にする意識を持って“適正な配賦の考え方”を確立する必要があるのです。
特定資産
特定資産とは、特定の目的のために使途、保有又は運用方法等に制約が存在する資産をいいます。
特定資産には、預金や有価証券等の金融資産のみならず、土地や建物等も含まれます。例えば、会館建設積立資産、退職給付引当資産、預り保証金引当資産があり、貸借対照表上、固定資産の部に計上されます。
流動資産に計上される現金預金とは別に管理しておくべきもの、というイメージを持てば、わかりやすくなります。
特定資産における「特定の目的」
一見、特定の目的があるような勘定科目名で計上されていても、資金に余裕がある場合に不特定額を積み立てる、という積立資産を見かけることがあります。
この場合には、「特定の目的」に関する事業の具体性(いつ、なにを、どうやって、いくら)があるとはいえません。
特定資産として計上するためには、その基となる事業の具体性が求められます。
特定資産の源泉
指定寄付金を受け取った場合には使途が特定されているので受け入れた資産は特定資産となり得ますが、一般正味財産を財源として特定資産を計上するには、「特定の目的」が必要になります。
使途に制約を設けないからこそ、法人は一般寄付金として受け入れたはずです。
ということは、「特定の目的」がない限り、特定資産とはなり得ないのです。
特定資産に関する取扱要領の作成
特定資産を適切に管理するために、以下の事項を定めた取扱要領を作成しておくことが望まれます。
① 目的
② 積立ての方法
③ 目的取崩の要件
④ 目的外取崩の要件
⑤ 運用方法
⑥ その他
賞与引当金
いまだに賞与引当金を計上していない公益法人を見かけます。
その度に現金主義と発生主義の違いを丁寧に説明します。なぜ、賞与引当金を計上する必要があるのか理解してもらいたいからです。
簡単にいえば、賞与を支給する会計年度に費用計上するのではなく、その発生原因の生じた会計年度において引当計上することが合理的ということです。
リース資産
公益法人会計基準においても、ファイナンス・リース取引は、原則、資産計上します。重要性が乏しい場合には、賃貸借処理によることができます。
ある公益法人は、年間のリース料支払額が500万円を超えていました。この状態で「重要性が乏しい」とはいえません。原則的な処理をしなければなりません。
参考までに、原則的処理(その中で利息相当額を控除しない最も簡便な方法)と賃貸借処理を次に示します。
≪例題≫
リース料総額 600
リース期間 5年
【原則的処理(その中で利息相当額を控除しない最も簡便な方法)】
(借方) |
(貸方) |
|||
リース取引開始日 | (リース資産) | 600 | (リース債務) | 600 |
年間リース料支払い | (リース債務) | 120 | (現金預金) | 120 |
減価償却費の計上 | (減価償却費) | 120 | (減価償却累計額) | 120 |
【賃貸借処理】
(借方) |
(貸方) |
|||
リース取引開始日 |
仕訳なし |
|||
年間リース料支払い | (支払リース料) | 120 | (現金預金) | 120 |
減価償却費の計上 |
仕訳なし |
ご覧のように、原則的処理でも最も簡便な方法を採用すれば、年間の費用計上額は賃貸借処理と同じになります。
両者の違いは、貸借対照表にリース資産及びリース債務が計上されるか否かです。
簿外通帳
簿外通帳とは、帳簿に記載されていない通帳のことです。
本来、そのような通帳が存在しては、いけません。以下のケースは、悪意をもって簿外の通帳を取り扱ったわけではありませんが、是正しなければなりません。
通帳に預金残高があったケース
給与支払い時の会計処理について、実際は社会保険料預り金を差し引いて給与を支給しているにも拘らず、総支給額全額を支払ったように会計処理がされていました。よって、預り金(負債)及び預金(資産)がいずれも簿外になっています。
その結果、当該預り金の額が別の通帳に移されて簿外になっていたということです。
会計処理を適正にすることによって、預金及び預り金を両建てで貸借対照表に計上する必要があります。
通帳に預金残高がなかったケース
法人の管理対象外となっている銀行口座が、複数存在しました。
立入検査日時点では残高はありませんでしたが、一部の預金口座では、実際に年度中に資金の移動が行われていました。
トラブルを未然に防止する意味で、休眠口座は解約をし、法人の管理対象外となる銀行口座を持たないようにすべきです。