社会福祉充実残額算定の考え方 丸わかり!
「社会福祉充実計画の承認等に係る事務処理基準」が公表されました。その中に社会福祉充実残額算定シートもあります。荒い印象のあった算定シートでしたが、改訂されています。
厚生労働省の該当ページよりどうぞ。
以下の記事は、社会福祉充実残額算定シートが公表される前に、社会福祉充実残額をどのように算定すればよいのか考え方をシュミレートしたものです。
社会福祉充実残額の算定について、考え方を整理します。
社会福祉充実計画に記載される社会福祉充実残額は、どのようにして算出すればよいのか?
法案には明示されていないので、政省令が明らかにならなければ具体的なことはわかりません。改正社会福祉法において、社会福祉充実残額を地域における公益的な取組を含む福祉サービスに計画的に再投下する仕組みが導入されます。
したがって、自らの法人において社会福祉充実残額がどのくらいになるのか、早めに目途をつけておきたいところです。
社会福祉充実残額算定の基本となる式
純資産から基本金及び国庫補助金等積立金を除いた額(A)から、さらに控除対象財産額(事業継続に必要な最低限の財産の額、(B))を差し引いた概念を福祉サービスに再投下可能な財産額として位置づけます。これが、社会福祉充実残額(C)です。
(C)=(A)-(B)
控除対象財産額の内容
社会福祉法に基づく事業に活用している不動産等
法人が現に実施する社会福祉事業等に直接または間接的に供与されている財産で、当該財産がなければ事業の実施に直ちに影響が及ぶものをいいます。
基本財産とその他の固定資産が該当しますが、基本金及び国庫補助金等特別積立金等との重複部分は調整します。
自己資金で購入した部分に限られると理解すればわかりやすくなります。
再生産に必要な財産
建て替えや大規模修繕等のために必要な財産(費用)のことです。補助金や融資を受けるのであれば、その部分は差し引きます。
「再生産に必要な財産」の範囲はかなり広く想定されていて、次の1、2、3の合計額です。
- 将来の建替に必要な費用
- 建替までの間の大規模修繕に必要な費用
- 設備・車両等の更新に必要な費用
必要な運転資金
数か月分の運転資金のことです。
資金収支表を用いることもできますし、貸借対照表から算出する方法も考えられます。
それでは、数字を使って考えます。
前提
≪貸借対照表≫
流動資産 | 流動負債 | ||||
現金預金 (*1) | 120 | 事業未払金 (*4) | 70 | ||
事業未収金 | 90 | 賞与引当金 | 5 | ||
その他の流動資産 | 30 | 1年以内返済
借入金・リース債務 (*5) |
24 | ||
固定資産 | 固定負債 | ||||
基本財産 (*2) | 500 | 設備資金借入金 (*6) | 80 | ||
施設整備積立資産 | 200 | リース債務 (*6) | 5 | ||
その他の固定資産 (*3) | 60 | 退職給付引当金 | 16 | ||
純資産 | |||||
基本金 (*7) | 50 | ||||
国庫補助金等特別積立金 (*8) | 400 | ||||
施設整備積立金 | 200 | ||||
次期繰越活動増減差額 | 150 | ||||
資産合計 |
1,000 |
負債純資産合計 | 1,000 |
≪再生産に必要な財産≫
施設整備予算 | (*9) | 300 |
融資予定額 | (*10) | 115 |
減価償却累計額 | (*11) | 50 |
補助割合 | (*12) | 50% |
≪必要な運転資金≫
年間事業活動支出の額 | (*13) | 260 |
控除対象財産額(B)について想定される考え方
≪イ≫
① 控除調整額を、基本金、国庫補助金等特別積立金、借入金(長期のみ)、リース債務(長期のみ)の額と考える。
基本財産 500 + その他の固定資産 60 – { 基本金 50 + 国庫補助金等特別積立金 400 + 設備資金借入金・リース債務の合計額(長期のみ) 85 } = 25
② 控除調整額を、基本金、国庫補助金等特別積立金、借入金、リース債務の額と考える。
基本財産 500 + その他の固定資産 60 -{ 基本金 50 + 国庫補助金等特別積立金 400 + 設備資金借入金・リース債務の合計額 109 } = 1
≪ロ≫
① 建て替え、大規模修繕等のための施設整備予算から融資予定額を差し引いた額
(*9) – (*10) = 185
② 減価償却累計額から補助金相当額を差し引いた額
(*11) × {1-(*12)} = 125
≪ハ≫
① 事業未収金からを差し引いた額
事業未収金 90 – 事業未払金 70 = 20
② 資金収支計算書における事業活動支出の3ケ月分
(*13) × 3/12 = 65
社会福祉充実残額(C)の算定
(C)=(A)-(B)でした。(A)は、施設整備積立金200と次期繰越活動増減差額150との合計額350です。
控除対象財産額(B)は、上記のように考え方次第で値が変わります。
上記の例では≪イ≫≪ロ≫≪ハ≫にそれぞれ2通りずつの考え方ができるので、2の3乗で、8通りの(C)が求められます。
(C)が最大になる場合、最小になる場合を表にまとめると、次のようになります。
項目 | (C)の最大値 | (C)の最小値 |
A | 350 | 350 |
B ≪イ≫ | 1 | 25 |
B ≪ロ≫ | 125 | 185 |
B ≪ハ≫ | 20 | 65 |
C | 204 | 75 |
このように控除対象財産額(B)の考え方によって、社会福祉充実残額(C)の結果は大きく変わります。これはあくまで、想定される考え方を一例として示したものです。
最終的に、社会福祉充実残額(C)の算定の仕方が公表されて、画一的な求め方が明らかになるはずです。
社会福祉法改正後に示される厚生労働省令に注目してください。
追補
「社会福祉充実計画の承認等に係る事務処理基準」の内容がその後も調整され、最終的に控除対象財産額の範囲がさらに広がって、社会福祉充実残額が生じる法人はかなり減少しました。
それは「必要な運転資金」の考え方に特例を認めたことに起因します。
特例の内容
原則
年間事業活動支出の3か月分
特例
年間事業活動支出全額
特例を採用できる条件
以下が特例を採用できる条件になります。
控除対象財産額としての「再生産に必要な財産」と「年間事業活動支出の3か月分」との合計額が年間事業活動支出全額よりも少額である場合、控除対象財産額である「必要な運転資金」の額は、年間事業活動支出全額とすることができる。