「特定収入があった場合には仕入消費税の全額を控除できない」の正しい解釈
NPO法人等の非営利法人は、補助金等の収入を受け取って活動の原資にしている場合が多くあります。
補助金等については消費税が課されません。一方で、経費には消費税が課されます。課税売上に係る消費税がほとんどないにもかかわらず、課税仕入に係る消費税をすべて税額控除できるならば、一般法人との間で不公平が生じます。
なぜなら、一般法人は通常、課税売上に係る消費税の方が多いからです。
そこで特例として、特定収入に対応する課税仕入等の仕入税額控除が制限されます。
特定収入に係る仕入税額控除の特例
通常、消費税額は、売上に対する消費税額から仕入に対する消費税額を差し引いて計算します。
消費税額=課税標準額に対する消費税額-課税仕入れ等の税額
特定収入に係る仕入税額控除の特例は、簡易課税を適用する場合を除き、課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の税額の合計額は、通常の計算に基づく課税仕入れ等の税額の合計額から特定収入に係る課税仕入れ等の税額を控除して求めます(消費税法第60条第4項)。
つまり、次のようになります。
消費税額=課税標準額に対する消費税額 -(課税仕入れ等の税額 - 特定収入に係る課税仕入れ等の税額)
また、上式の括弧がマイナスになる場合は、そのマイナス額を課税資産の譲渡等に係る消費税額とみなして課税標準額に対する消費税額に加算します(消費税法第60条第5項)。
なお、特定収入に係る仕入税額控除の特例が適用されるのは、以下の特定収入割合が5%を超える場合です。
特定収入割合=特定収入の額/(税抜課税売上高+非課税売上高+免税売上高+特定収入の額)
特定収入とは
以下のように定義されています。
法第60条第4項《国、地方公共団体等に対する仕入れに係る消費税額の計算の特例》に規定する「特定収入」とは、資産の譲渡等の対価に該当しない収入のうち、令第75条第1項各号《特定収入に該当しない収入》に掲げる収入以外の収入をいうのであるから、例えば、次の収入(令第75条第1項第6号《特定収入に該当しない収入》に規定する特定支出のためにのみ使用することとされているものを除く。)がこれに該当する。
- 租税
- 補助金
- 交付金
- 寄附金
- 出資に対する配当金
- 保険金
- 損害賠償金
- 資産の譲渡等の対価に該当しない負担金、他会計からの繰入金、会費等、喜捨金等
わかりにくい説明ですので、図解します。
収 入 |
課税売上 |
||
非課税売上 |
|||
不課税
収入 |
特定収入に該当しない収入 | ||
特定支出のみに使用される収入 | 特定収入 |
特定収入とは、補助金のような資産の譲渡等の対価に該当しない収入(不課税収入)のうち、借入金、出資金、預金・貯金及び預り金、貸付回収金、返還金及び還付金(特定収入に該当しない収入)以外の収入で、明確に不課税支出又は非課税仕入のみに使用されたもの(特定支出にのみ使用される収入)を除いた収入をいいます。
不課税収入
資産の譲渡等の対価に該当しない収入のことです。
特定収入に該当しない収入
消費税法施行令 第75条第1項第1号から第5号に規定されている借入金等、出資金、預貯金及び預り金、貸付回収金、返還金及び還付金をいいます。
法第六十条第四項に規定する政令で定める収入は、次に掲げる収入とする。
一 借入金及び債券の発行に係る収入で、法令においてその返済又は償還のため補助金、負担金その他これらに類するものの交付を受けることが規定されているもの以外のもの(第六号及び次項において「借入金等」という。)
二 出資金
三 預金、貯金及び預り金
四 貸付回収金
五 返還金及び還付金
六 次に掲げる収入(前各号に掲げるものを除く。)
イ 法令又は交付要綱等(国、地方公共団体又は特別の法律により設立された法人から資産の譲渡等の対価以外の収入を受ける際にこれらの者が作成した当該収入の使途を定めた文書をいう。)において、次に掲げる支出以外の支出(ロ及びハにおいて「特定支出」という。)のためにのみ使用することとされている収入
(1) 課税仕入れに係る支払対価の額(法第三十条第一項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額をいう。第四項において同じ。)に係る支出
(2) 法第三十条第一項に規定する特定課税仕入れに係る支払対価の額並びに同項に規定する特定課税仕入れに係る消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額(これらの税額に係る附帯税の額に相当する額を除く。)の合計額(第四項において「特定課税仕入れに係る支払対価等の額」という。)に係る支出
(3) 課税貨物の引取価額(課税貨物に係る第五十四条第一項第二号イに掲げる金額をいう。第四項において同じ。)に係る支出
(4) 借入金等の返済金又は償還金に係る支出
ロ 国又は地方公共団体が合理的な方法により資産の譲渡等の対価以外の収入の使途を明らかにした文書において、特定支出のためにのみ使用することとされている収入
ハ 公益社団法人又は公益財団法人が作成した寄附金の募集に係る文書において、特定支出のためにのみ使用することとされている当該寄附金の収入(当該寄附金が次に掲げる要件の全てを満たすことについて当該寄附金の募集に係る文書において明らかにされていることにつき、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成十八年法律第四十九号)第三条(行政庁)に規定する行政庁の確認を受けているものに限る。)
(1) 特定の活動に係る特定支出のためにのみ使用されること。
(2) 期間を限定して募集されること。
(3) 他の資金と明確に区分して管理されること。
特定支出にのみ使用される収入
消費税法施行令 第75条第1項第6号に規定されている収入のことです。
特定収入ではありません。
特定支出
課税仕入れ、課税貨物(あわせて課税仕入れ等という。)及び借入金の返済に係る支出以外の支出をいいます。
代表的なものには、利子、土地購入費、人件費等があります。
特定収入以外の収入
「特定収入に該当しない収入」+「特定支出にのみ使用される収入」
特定収入に係る仕入税額を控除する理由
NPO法人等は公益性、公共性のある事業を行っている場合が多く、補助金、寄附金、会費等の特定収入が活動財源になっています。課税仕入れの一部もここから賄われています。
特定収入で課税仕入れを行った場合、その課税仕入れに対価性はありません。したがって、特定収入によって賄われた課税仕入れ税額は、課税売上に係る消費税額から控除することはできません。
一般に、仕入税額控除が認められているのは、課税仕入れに含まれる消費税額が売上のためのコストという性質をもっているからです。
だからといって仕入税額控除を無制限に認めると、課税売上に係る消費税額に比べて課税仕入に係る消費税額が大きい場合には、常に消費税が還付されることになってしまいます。
このような事態を避けるために、課税売上税額から控除できるのは課税売上の対価としての課税仕入税額に限ることとしたのです。
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