公益法人へのアンケート結果から垣間見える会計に対する意識
内閣府公益認定等委員会 公益法人の会計に関する研究会が、平成30年夏に実施したアンケートの結果がまとめられました。これは、定期提出書類を提出している公益法人の中から任意に抽出した750法人を対象にしたアンケートです。
研究報告やFAQが公益法人に十分に浸透しているか図る目的で実施されたのですが、回答を見ているといろいろ参考になります。
その中から4つご紹介します。
公益法人における収支相償
公益法人が毎期作成する定期提出書類において、公益目的事業の収益と費用の実績をもとに収支相償の判定をするために必ず作成しなければならないものに別表Aがあります。
○ 別表Aの収支相償の第二段階の判定(収入-費用)はプラス(剰余金)ですか。
(回答)
プラス | プラスでない | 合計 | |
法人数 | 50 | 259 | 309 |
割合 | 16.2% | 83.8% | 100.0% |
収支相償とは、公益目的事業に係る収益がその実施に要する適正な費用を償う額を超えてはいけないという基準です。つまり、公益目的事業は(中長期では)儲けを出さない、ということです。
「プラス 16.2%」という回答結果をどうとらえますか。
立入検査時に収支相償について検討することが多かったため、収支相償を満たしていない法人が相当程度存在するのだろうと感じていました。思っていたほど多くなく、意外でした。
ただ、回答のない441(=750-309)法人の中に、どれだけ「プラス」があるか定かではありませんが。
収支相償については、以下を参照してください。
収支相償上の剰余金の解消策としての金融商品の取得
収支相償の判定がプラスである場合、剰余金を将来の公益目的事業に使用するための方法の一つとして、26年度報告の「財務三基準の解釈・適用 2.剰余金の解消理由(1)公益目的保有財産としての金融資産の取得について」やFAQ 問5-2-7が参考になります。
○ 26年度報告やFAQの記載について知っていますか。
○ 剰余金解消策としての金融資産の取得について、どのような状況にありますか。
(回答)
認識 | 未認識 | 合計 | |
法人数 | 221 | 88 | 309 |
割合 | 71.5% | 28.5% | 100.0% |
要件を満たし取得した | 検討後、取得を断念した | 該当なし | 未回答 | 合計 | |
法人数 | 12 | 9 | 214 | 74 | 309 |
割合 | 3.9% | 2.9% | 69.3% | 23.9% | 100.0% |
金融資産の運用益を財源として事業を行っている公益財団法人においては、公益目的保有財産としての金融資産を取得することは、事業拡大のための必要な措置です。
しかし、事業拡大を適切に実施しなければ、内部留保の増大を招き、収支相償や遊休財産額の保有制限に関する制度の趣旨を潜脱するおそれがあります。
例えば、以下の要件によって、金融資産を取得することの必要性と合理性について確認しなければなりません。
- 事業拡大に関して、実物資産ではなくて金融資産を取得して業務を拡大する必要性が明確なこと
- 事業拡大の内容は明確になっており、それが事業計画等として法人において機関決定等(理事会等の承認、決定)を受けていること
- 運用する金融資産について、その内容及びこれから生じる運用益の見込額が妥当であること並びに運用益が事業拡大の財源として合理的に説明できるものであること(拡大する日湯尾と運用益のバランスが適当であること)
- その他、事業の財源として、剰余金を用いることについて望ましい理由があること
正味財産増減計算書内訳表における法人会計区分の省略
公益法人が公益目的事業のみ実施する場合、正味財産増減計算書内訳表の法人会計区分を省略することができます。
26年度報告の「正味財産増減計算書内訳表における法人会計区分の義務付けの緩和について」やFAQ問6-2-7において、その説明があります。
○ 26年度報告やFAQの記載について知っていますか。
○ 26年度報告やFAQの内容は役に立ちましたか。
(回答)
認識 | 未認識 | 合計 | |
法人数 | 219 | 90 | 309 |
割合 | 70.9% | 29.1% | 100.0% |
大変役立った | まあまあ役立った | ほとんど役立っていない | 未回答 | 合計 | |
法人数 | 56 | 130 | 20 | 103 | 309 |
割合 | 18.1% | 42.1% | 6.5% | 33.3% | 100.0% |
正味財産増減計算書内訳表における法人会計区分の省略は、公益法人の便宜を図ることを目的に導入されたものです。
しかしながら実務的には会計ソフト上会計区分の設定を適切に行えば、正味財産増減計算書内訳表の作成はそれほど手間ではありません。いわば、勝手に作成してくれます。
便宜を図ったというほどでもありません。
それよりも正味財産増減計算書内訳表において法人会計区分を省略することで、法人会計区分の損益が“見えなくなる”ことに危惧を覚えます。
正味財産増減計算書内訳表における法人会計区分の省略については、以下を参照してください。
金融商品に関する注記
公益法人が、現金及び預金、その他金融商品を保有している場合、その内容や運用上のリスク、運用方針等について、財務諸表に注記することが義務付けられています。
この注記の記載例が27年度報告の「企業会計基準の公益法人への適用について2.金融商品に関する会計基準」やFAQ問6-4-2に記載されています。
○ 27年度報告やFAQの記載について知っていますか。
○ 27年度報告やFAQの内容は役に立ちましたか。
(回答)
認識 | 未認識 | 合計 | |
法人数 | 221 | 88 | 309 |
割合 | 71.5% | 28.5% | 100.0% |
大変役立った | まあまあ役立った | ほとんど役立っていない | 未回答 | 合計 | |
法人数 | 66 | 134 | 7 | 102 | 309 |
割合 | 21.4% | 43.4% | 2.3% | 33.0% | 100.0% |
金融商品に関する注記している法人は153(49.5%)あります。
しかしこのうち101法人は、従来から注記対象となっていた「満期保有目的債券の時価に関する注記」を対象としているのみで、新たに追加された「金融商品の状況に関する定性的情報の注記」は記載されていませんでした。
どんなことを注記すればよいでしょうか。例えば、以下のような項目が考えられます。
- 金融商品に対する取組方針
- 金融商品の内容及びそのリスク
- 金融商品に係るリスク管理体制
金融商品に関する情報の重要性
私の考えをまとめます。
基本財産(株式、債権等の金融商品)の運用益を活動財源にしている法人や、有価証券の評価方法として時価法を採用している法人は、金融商品に係るリスクが大きいので、「金融商品の状況に関する定性的情報の注記」を記載すべきです。
先日の立入調査でも指摘しました。
注記は財務諸表の読者のために行いますが、それは法人の運営上重要な情報だからです。ということは法人にとっても重要なのです。
金利の低下によって基本財産の運用益が減ってしまった法人は、当然ながら金融商品に関する情報の重要性を痛感しています。一方、有価証券の評価方法として時価法を採用している法人は、それほどの意識がありません。例えば、特定資産評価損益を多額に計上していても、単なる”含み損・含み益”程度に考えていたりします。
時価法は、時価で有価証券を評価し、評価差額は損益として認識します。もっと時価に敏感であるべきです。
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