公益法人における特定費用準備資金の範囲拡大
平成29年度 公益法人の会計に関する諸課題の検討結果について』が公表されました。
その中から特定費用準備資金を取り上げます。要件を見直すとか、見直しを中止するとか、紆余曲折がありましたが、結局、特定費用準備資金の範囲が拡大されました。
私は、次に挙げる理由から、この取扱いは理論的ではないと考えています。
過去の紆余曲折については、次の記事を参考にしてください。
特定費用準備資金に関する問題意識
まずは、特定費用準備資金の定義を確認しておきます。
特定費用準備資金とは、将来に公益目的事業のために費用が発生する計画がある場合、それに備えて特定化された資金をいいます。
そして、特定費用準備資金は、貸借対照表上、特定資産に計上します。
特定費用準備資金とは、将来の特定の活動の実施のために特別に支出する費用に係る支出に充てるために保有する資金
『平成29年度 公益法人の会計に関する諸課題の検討結果について』では、特定費用準備資金の活用が2,400法人中20%程しかないとして、以下のように活用を広めたいとしています。
より多くの公益法人が特定費用準備資金を活用することができるようになるために、改めて特定費用準備資金の要件を明確化し、さらに、従来認められていなかった新たな特定費用準備資金の計上方法を認め、特定費用準備資金を弾力化することとする。
特定費用準備資金の要件
要件の明確化
『平成29年度 公益法人の会計に関する諸課題の検討結果について』では、要件について以下のような表を用いて、特定費用準備資金を分類しています。
特定費用準備資金の計上が認められる場合 |
対象事業 |
||
新規事業 |
既存事業 |
||
現状
【通常型】 |
イ 将来の費用支出の増加が見込まれる場合 | ○ | ○ |
ロ 将来の収入の減少が確実に見込まれる場合 | ― | ○ | |
【特例型】 |
ハ 将来的に収入の安定性が損なわれるおそれがあり、専ら法人の責に帰すことができない場合 | ― | ○ |
(注)原典では、イは1類型、ロは2①類型、ハは2②類型として表記されています。
2の類型は、将来の収入の減少に備えて法人が積み立てる資金(基金)として、過去の実績や事業環境の見通しを踏まえて、活動見込みや限度額の見積りが可能であるなどの要件を満たすことができれば、特定費用準備資金として認められるものである。
(注)2の類型とは、表上のロとハのことを指します。
先の表ではロが現状の枠内にあるように説明されていますが、私は、本来の定義を考えれば現状はイのみであると考えています。
表中「新規事業」と「既存事業」に区別されていますが、特定費用準備資金の要件を検討するに際して重要なことは、この区別よりも、将来、公益目的事業のために特別に支出する資金であるか否かということだと思います。
新規事業に限らず、従来とは異なる特別なことを実施するならば、特定費用準備資金の計上が認められるのです。
そして、ロからは財政調整引当資産を想起します。
財政調整引当資産と特定費用準備資金との関係については、次の記事を参考にしてください。
弾力化
公益法人の収入減少については、専ら公益法人の責に帰すことができない事情により収入が減少する可能性もあり、このような場合については、従来の特定費用準備資金では十分に対応することができないという課題が生じていた。
例えば、政府等からの補助金を受けて公益目的事業を行う公益法人について、政策変更により当該補助金が削減される見込みが高くなった場合などでは、当該公益法人の責に帰すことができない事情により当該公益法人の収入が減少する。
そこで、
① 公益法人が特定費用準備資金の積立要件を説明するに当たり、当該公益法人の責に帰すことができない事情により将来の収入減少が見込まれることについて、法人の理事会、評議員会又は社員総会、監事等の認識を踏まえた説明をすること
② 当該積立額に相当する資金が必要となる理由の説明をすること
③ 当該積立の期間は最長で5年であり、その期間が合理的であること
を条件に、「将来的に収入の安定性が損なわれるおそれがあり、専ら法人の責に帰すことができない場合」に該当する場合についても特定費用準備資金の計上を認めることとする。
以上のように、ハについても条件つきで特定費用準備資金として取り扱うことを認めています。
しかしながら、「専ら公益法人の責に帰すことができない事情により収入が減少する可能性もあり、このような場合については、従来の特定費用準備資金では十分に対応することができない」という状況が、本当に「課題」なのでしょうか。
特定費用準備資金を計上したい理由は、収支相償対策に利用することにあります。ということは、現状では公益目的事業会計は黒字のはずです。一方で、将来収益の減少が見通せるので、両者を何とか結び付けたい。
このように限定的な状況下での「課題」なわけです。
検討結果
公益認定等委員会の公式見解ですので、私が何を言おうが覆ることはありません。しかしながら、ハを認める論理展開に無理があるように感じるのは、私だけでしょうか。
イは従来の枠組みです。
ロとハは性質的に近く、ロの特殊例がハです。
ロを現状枠内と位置づけることでハを取り込みやすくしているのではないかと勘繰ってしまいます。
収支相償が公益法人全体の中で大きな問題となっていることの裏返しなのかもしれません。
特定費用準備資金の範囲が広がったとはいえ、ロ及びハの場合は、特定費用準備資金の計上に当たって、公益法人側が以下の事項を説明しなければなりません。注意が必要です。
【ロの場合】
過去の実績や将来収入がどのように減少するかの明示的な見込
【ハの場合】
具体的かつ明確な形で、事業の安定性・継続性が損なわれる場合のデメリット
今回の特定費用準備資金の範囲拡大は、政策的に決定されたものでしょう。各法人は自らの状況を冷静に見極めた上で、安易に飛びつくことなく、理論構成をしっかりと立てて望むべきです。
準備のないまま新範囲の特定費用準備資金を計上すると、立入検査が計上の可否を議論する場になってしまうのではないかと心配します。
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