令和3年度税制改正大綱の総ざらえ

会計 税務

令和3年度税制改正大綱によれば、ポストコロナに向けた経済機構の転換、好循環の実現を図るため、企業のデジタルトランスフォーメーション及びカーボンニュートラルに向けた投資を促進する措置が設けられます。
それとともに、こうした投資等を行う企業に対する繰越欠損金の控除上限の特定が設けられます。
また、中小企業の経営資源の集約化による事業再構築等を促す措置が創設されます。
加えて、家計の暮らしと民需を下支えするため、固定資産税の評価替えへの対応、住宅ローン控除の延長等が行われます。
以下に主なものを掲載します。

個人所得課税

控除期間13年間の住宅ローン控除の特例の延長及び床面積の見直し

住宅ローン控除のうち、消費税率が10%に引き上げられた際に設けられた控除期間13年間の特例が延長され、令和4年末までの入居者が対象となります。
また、経済対策として、上記の延長対象者のうち合計所得が1,000万円以下の者に対して、床面積要件を緩和し40㎡から50㎡であっても対象とする特例措置が設けられます。

さらに、令和4年1月1日以後に確定申告書を提出する場合について、税務署長が納税者から提供された既存住宅等に係る不動産識別事項等を使用して、入手等をしたその既存住宅等の登記事項により床面積要件等の確認ができた住宅も住宅ローン控除の対象となる既存住宅に含まれることとなります。

税務上の手続きにおけるデジタル化の推進

税務上の手続きにおける事務の簡素化や利便性のため、書面による提出に代えて電磁的方法による提供を行うことができるようになります。

具体的には、「障害者に対する少額貯蓄非課税制度」、「勤労者財産形成住宅(年金)貯蓄非課税制度」、「特定口座内保管上場株式等との譲渡等に係る所得計算等の特例等」、「NISA制度」、「ジュニアNISA制度」等について、デジタル化が推進されます。

国や地方自治体の実施する子育てに係る助成等の非課税措置

国や地方自治体からの子育てに係る助成等(ベビーシッター、認可外保育施設の利用料等)について、非課税とする措置が講じられます。

資産課税

住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置等の延長及び見直し

住宅取得等資金に係る贈与税について、令和3年4月1日から12月31日までの契約に係る非課税枠が1,500万円(改正前1,200万円)に引き上げられます。

また、令和3年1月1日以後に受贈者が贈与を受けた年分の所得税に係る合計所得金額が1,000万円以下である場合に限り、床面積要件の下限が40㎡以上(現行:50㎡以上)に引き上げられます。

教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置等の延長及び見直し

従前の非課税措置は、贈与者が死亡しても死亡前3年以内の贈与に係る管理残高でなければ贈与者の相続財産に加算されませんでしたが、節税的な利用を防止する観点から、贈与者の死亡日までの年数にかかわらず、原則として死亡日における管理残高が相続財産に加算されることになりました。

また、受贈者が贈与者の孫等である場合において、贈与者の死亡時の管理残高に係る相続税額への2割加算の対象とされることになりました(従前は2割加算の適用なし)。
上記の見直しにより、適用期限が令和5年3月31日まで2年間延長されます。

結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置等の延長及び見直し

上記と同様に、節税的な利用を防止する観点から、受贈者が贈与者の孫等である場合には、贈与者の死亡時の管理残高に係る相続税額への2割加算の対象とされることになり(従前は2割加算の適用なし)、適用期限が令和5年3月31日まで2年間延長されます。

法人課税

DX投資促進税制の創設

ウィズコロナ、ポストコロナ時代を見据え、デジタル技術を活用した企業変革(デジタルトランスフォーメーション:DX)を実現するため、産業競争力強化法に新たな計画認定制度が創設され、同法の改正法の施行の日から令和5年3月31日までの間に、DXの実現に必要なクラウド技術を活用したデジタル関連投資が行われた場合には、そのデジタル関連投資に対し、税額控除(3%又は5%)又は特別償却30%が選択適用できるようになります。

カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の創設

2050年カーボンニュートラルの実現には、民間企業による脱炭酸化投資の加速が不可欠です。そのため、産業競争力強化法に新たな計画認定制度が創設され、同法の改正法の施行の日から令和6年3月31日までの間に、計画認定制度に基づく一定の設備を導入した場合には、投資額に対して最大10%の税額控除又は50%の特別償却が選択適用できることになります。

繰越欠損金の控除上限の特例の創設

コロナ禍の厳しい経営環境の中で、赤字であっても果敢に前向きな投資(DX、カーボンニュートラル、事業再編等)を行う企業に対し、その投資額の範囲内で最大5年間、繰越欠損金の控除限度額を最大100%(現行:所得金額の50%)とする特例が創設されます。

中小企業者等の貸倒引当金の特例における法定繰入率の見直し

中小企業者等の貸倒引当金の特例について、割賦販売小売業並びに包括信用購入あっせん業及び個別信用購入あっせん業に係る法定繰入率が1,000分の7(現行:1,000分の13)に引き下げられます。

中小企業者等の法人税率の特例の延長

中小企業者等の法人税率の特例(15%)適用期限が2年延長されます。

消費課税

車体課税

自動車重量税のエコカー減税及び自動車税・軽自動車税の環境性能割(旧自動車取得税)について、新たな2030年度燃費基準の下での区分の見直しなど所要の措置が講じられます。
環境性能割の臨時的軽減は、適用期限が9か月延長され、令和3年末までの取得が対象とされるとともに、グリーン化税制(軽課)は重点化等が行われたうえで2年延長されます。
十分な賃上げや設備投資を行った大企業について、賃上げ額の一定割合の税額控除ができる措置が講じられました。

課税売上割合に準ずる割合の適用開始時期の見直し

消費税の仕入控除税額の計算について、課税売上割合に準ずる割合を用いようとする課税期間の末日までに承認申請書を提出し、同日の翌日以後1月を経過する日までに税務署長の承認を受けた場合には、当該承認申請書を提出した日の属する課税期間から課税売上割合に準ずる割合を用いることができるようになります。

金地金の仕入税額控除に係る本人確認書類の見直し

昨今、密輸者と買取り業者が通牒していると考えられるような事案が見られたため、より一層の金地金の密輸抑制を図る観点から、仕入税額控除の要件として認められる本人確認書類が見直されます。

密輸した金地金の買取りが強く疑われる事案で利用されている「在留カードの写し」や国内に住所を有しない者の「旅券の写し」「その他これらに類するもの」(外国政府発行の本人確認書類)は、その対象から除外されることになりました。

納税環境整備

納税関係書類における押印義務の見直し

税務署長等に提出する国税関係書類において、実印・印鑑証明を求めている手続き等を除き、令和3年4月1日以後に提出する税務関係書類について押印義務が廃止されます。
上記の見直しは、令和3年4月1日前においても、運用上、押印がなくても改めて求めないことになります。
なお、地方税についても同様の見直しが行われます。

電子帳簿等保存制度の見直し

経理の電子化による生産性の向上、テレワークの推進、クラウド会計ソフト等の活用による記帳水準の向上に資するため、帳簿書類を電磁的に保存する際の手続きが抜本的に見直されます。

また、スキャナ保存制度については、ペーパーレス化を一層推進する観点から、手続き、要件を大幅に緩和するとともに、電子データの改ざん抑止のための措置が講じられます。

スマートフォンを利用した決済サービスによる納付手続きの創設

国税の納付手続きについて、国税を納付しようとする者がスマートフォンを使用した決済サービスに係る事項によりインターネットを利用して行う入力により納付しようとする場合には、国税庁長官が指定する納付受託者に納付を委託することができることになります。

その場合には、納付受託者が国税を納付しようとする者の委託を受けた日に国税の納付があったものとみなして延滞税、利子税に関する規定を適用するほか、納付受託者の納付義務、帳簿保管義務、納付受託者の指定の取消等について所要の措置が講じられ、令和4年1月4日以後に納付する国税について適用されます。

納税地の移動があった場合における質問検査権の管轄の整備

法人税等の質問検査権の行使は、法人の納税地の所轄税務署等の職員に限られることから、この取扱いを悪用し、調査着手後に納税地の異動を繰り返すことで法人税等の調査忌避を行う事例が散見されるようです。

上記のような事例を防止するため、法人税等に関する税務調査において、調査通知後に納税地の異動があっても旧納税地の所轄税務署長等が必要があると認めるときは、旧納税地の所轄税務署等の職員が質問検査権の行使が可能になります。

ランダムな税金豆知識(目を通してみよう)

所得税 (1)

年の途中で業務用不動産を購入するに当たり、不動産の売買代金とは別に、その不動産に係る固定資産税相当額を所有期間に応じて月割計算して売主に支払った場合、租税公課として必要経費に算入してもいいか?

業務用に供される資産に係る固定資産税は必要経費に算入するとされています(所得税基本通達37-5)。

固定資産税は、その年の1月1日における所有者に課税されますから、年の途中で不動産を売買した場合で、買主が当該不動産に係る固定資産税相当額を所有等で按分して売主に支払ったとしても、買主はその不動産に係る固定資産税の納税義務者ではないので所得税基本通達37-5は適用されません。
問いの場合、買主が支払った固定資産税相当額は、当該不動産の取得価額に算入することとなります。

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Posted by matsui