令和5年度税制改正大綱の注目ポイント3つ
今回は、気になる点を3つだけ取り上げます。
まず、相続時精算課税制度に暦年課税制度と同様の基礎控除が創設される一方、暦年課税制度における生前贈与の加算期間が3年から7年に延長されます。
次に、特定資産の買換え特例の適用を受けるためには、届出書の提出が義務付けられます。
最後に、インボイス制度の導入によってこれまで免税事業者であった者が納税する場合、納税限度額は課税標準額に対する消費税額の2割となります。
相続税精算課税制度、暦年課税制度の改正
生前贈与に関する制度改正の背景と目的
相続時精算課税制度は、平成15年度に次世代への早期の資産移転と有効活用を通じた経済社会の活性化の観点から導入されたものです。
今回の改正では、暦年課税との選択制は維持しつつ、同制度の使い勝手を向上させます。
具体的には、申告等に係る事務負担を軽減する等の観点から、相続時精算課税においても、暦年課税と同水準の基礎控除が創設されます。
改正の概要(相続時精算課税制度)
相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与を受けた財産に対する贈与税について、従来の特別控除額2,500万円とは別に、課税価格から基礎控除として110万円を毎年控除できることになります。
また、従来の相続時精算課税制度では、相続税の計算をする際に生前贈与を受けた財産の価格が相続税の計算に取り込まれますが、その価格は生前贈与を受けた時点の課税価格とされていました。
今回の改正によって、特定贈与者から贈与を受けた一定の土地又は建物について、相続税の申告書の提出期限までの間に、災害によって一定の損害を受けた場合には、贈与の時における価額から災害によって被害を受けた部分に相当する額を控除した残額が、相続税の課税価格に加算される額になります。
改正の概要(暦年課税制度)
暦年課税制度における生前贈与の加算期間が4年延長され、相続の開始前7年以内とされます。
この改正によって延長された4年間に受けた贈与については、総額100万円までは相続財産に加算されません。
その趣旨は、過去に受けた贈与の記録・管理に係る事務負担を軽減することにあります。
相続時精算課税制度と暦年課税制度との選択
相続時精算課税制度を選択すると、それ以後特定贈与者からの贈与については暦年課税制度に戻ることはできません。
今回の改正により、相続時精算課税制度においても各年の基礎控除額110万円の累積額が相続税の課税価格から除外されるため、相続時精算課税制度の方が有利になったといえます。
ただし、相続時精算課税制度は、特定贈与者の年齢が1月1日現在60歳以上で、かつ推定相続人の年齢が1月1日現在18歳以上であることが要件とされています。
これに対して、暦年課税制度については、贈与者も受贈者も年齢による制限を受けません。
相続時精算課税制度と暦年課税制度の選択については、総合的に検討して判断する必要があります。
生前贈与に関する制度改正の適用時期
相続税精算課税制度、暦年課税制度に係る改正は、いずれも令和6年1月1日以後の贈与から適用されます。
また、令和6年1月1日以後に生ずる災害により被害を受けた場合について適用されます。
暦年課税制度における生前贈与の加算期間の延長は、以下の表のように、令和6年1月1日の3年後である令和9年1月1日以後に相続が開始したものから順に延長されていきます。
相続開始年 | 加算期間 |
令和6年 | 令和3年から令和6年までの相続開始前3年間 |
令和7年 | 令和4年から令和7年までの相続開始前3年間 |
令和8年 | 令和5年から令和8年までの相続開始前3年間 |
令和9年 | 令和6年1月1日から令和9年までの相続開始前4年間 |
令和10年 | 令和6年1月1日から令和10年までの相続開始前5年間 |
令和11年 | 令和6年1月1日から令和11年までの相続開始前6年間 |
令和12年 | 令和6年1月1日から令和12年までの相続開始前7年間 |
令和13年 | 相続開始前7年間 |
特定資産の買換えの場合の特例
買換え特例改正の背景と目的
租税特別措置は真に必要なものだけに限定すべきであるので、毎年度、期限が到来するものを中心に、各措置の利用状況等を踏まえつつ、廃止を含めてゼロベースで見直しが行われます。
必要性や政策効果を考慮して、その範囲や繰延べ割合が改正されています。
買換え特例改正の概要
以下の見直しを行った上で、その適用期限が3年延長されます。
〇既成市街地等の内から外への買換えを適用対象から除外します。
〇航空機騒音障害区域の内から外への買換えについて、譲渡資産から、令和2年4月1日前に特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法の航空機騒音障害防止特別地域又は公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律の第2種区域になった区域内にある資産を除外します。
〇長期所有の土地、建物等から国内にある土地、建物等への買換えについて、東京都の特別区の区域から地域再生法の集中地域以外の地域への本店又は主たる事務所の所在地の移転を伴う買換えの課税の繰延べ割合を90%(現行 80%)に引き上げ、同法の集中地域以外の地域から東京都の特別区の区域への本店又は主たる事務所の所在地の移転を伴う買換えの課税の繰延べ割合を60%(現行 70%)に引き下げます。
〇譲渡資産を譲渡した日又は買替資産を取得した日のいずれか早い日の属する3月期間の末日の翌日2月以内に、本特例の適用を受ける旨、適用を受けようとする措置の別、取得予定資産又は譲渡予定資産の種類等を記載した届出書を、納税地の所轄税務署長に届け出ることを要件に加えます。
上記の「3月期間」とは、その事業年度をその開始の日以後3月ごとに区分した各期間をいいます。
買換え特例改正の適用時期
令和5年4月1日以後に譲渡する資産から適用されます。
また、届出書が要件とされる改正は、令和6年4月1日以後に譲渡する資産から適用されます。
インボイス制度(適格請求書等保存方式)の見直し
インボイス制度改正の背景と目的
これまで免税事業者であった者がインボイス発行事業者になった場合の納税額を売上税額の2割に軽減する3年間の負担軽減措置を講ずることにより、納税額の激変緩和を図ります。
簡易課税制度の適用を受けている者は、この措置によってさらに事務負担が軽減されます。
インボイス制度改正の概要
〇免税事業者が、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において、次のいずれかにより事業者免税制度の適用を受けられないこととなる事業者が対象となります。
- 免税事業者が適格請求書発行事業者となったこと
- 課税事業者選択届出書を提出したこと
ただし、次に該当する事業者はこの制度の対象にはなりません。
個人事業者が令和4年に課税事業者選択届出書を提出した場合は、令和5年1月1日から、すなわちインボイス制度施行前から引き続き事業者免税点制度の適用が受けられないので、この制度は適用できません。
個人事業者について、令和5年中の課税売上高が1,000万円を超えると、令和8年はこの制度の適用を受けられません。
資本金1,000万円以上の新設法人など
〇この制度の適用を受けると、課税標準額に対する消費税額から控除する金額を、当該課税標準額に対する消費税額に8割を乗じた額とすることにより、納付税額はその課税期間の課税税標準額に対する消費税額の2割となります。
〇簡易課税の場合は、課税売上ごとに簡易課税の業種区分を付けなければなりませんが、この制度の適用を受ける場合は、一律に控除割合が8割とされるので、業種区分を行う必要はありません。
〇適格請求書発行事業者がこの特例の適用を受けようとする場合には、確定申告書にその旨を付記するたけでよく、事前の手続きは要りません。
〇卸売業で簡易課税の適用を受ける場合や仕入税額控除によって還付を受けることができる場合など、この制度の適用を受けるよりも納税額が少なくなる場合は、課税期間ごとに任意にこの制度を選択しないことができます。
インボイス制度改正の適用時期
令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間に適用されます。
9月決算会社の場合には3期間、そうでない場合は4期間にわたる経過措置です。
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