個人所得税に関する令和2年度税制改正大綱の注目ポイント

02/15/2020会計 税務

令和2年度税制改正大綱は、全体的に小幅な改正と言われていますが、日々の暮らしに影響するものも少なくありません。
「令和の時代において人口減少と少子高齢化が一層進む」との問題認識のもとで、以下のような基本的な考えのもとに令和2年度税制改正大綱は作成されています。

「社会保障をはじめとした諸制度を人生100年時代にふさわしいものへと転換するとともに、海外初の経済の下方リスクの顕在化に適切に備えつつ、Society5.0の実現に向けたイノベーションの促進など中長期的に成長していく基盤を構築することが必要である。」

今回は、個人所得税に関する注目ポイントをフォーカスします。

住宅ローン控除の適用制限

居住用財産の譲渡所得の特例(3,000万円の特別控除、買換えの特例、軽減税率等)と住宅ローン控除とは、排他的に適用が認められています。
すなわち、新たに取得した住宅に住宅ローン控除を適用し、併せて譲渡した従前の住宅に居住用財産の譲渡所得の特例を受けることはできません
その対象期間は、従前の住宅を譲渡した年の前々年、前年、当年、翌年、翌々年です。

ところが、新たに住宅を取得して引っ越し、従前の住宅を3年目(翌々々年)に譲渡すると、排他的適用が外れるので、住宅ローン控除と居住用財産の譲渡所得の特例の両方を受けることができました。

そのようなことをできなくするための改正です。
新規住宅を取得して居住の用に供した個人が、その居住の用に供した日の属する年から3年目の年末までに、従前の住宅を譲渡した場合において、従前の住宅に居住用財産の譲渡所得の特例を受けるときは、新規住宅について住宅ローン控除を適用することはできなくなりました。
新規住宅について既に住宅ローン控除の適用を受けている場合には、住宅ローン控除を適用しない旨の修正申告をしたうえで、居住用財産の譲渡所得の特例を受けることはできます。

適用時期

令和2年4月1日以後に従前の住宅を譲渡する場合について適用されます。

未婚のひとり親に対する税制上の措置及び寡婦控除の見直し

すべてのひとり親家庭の子どもに対して公平な税制を実現する観点から、「婚姻歴の有無の公平」と「男性のひとり親と女性のひとり親の間の不公平」を同時に解消するための見直しが行われました。

改正概要

〇扶養親族たる生計を一にする子(*)を有する寡婦の要件に、合計所得金額が500万円以下であることを加える。
(*)総所得金額の合計額が48万円である者に限る。
 
〇寡婦及び寡夫の要件に、次のいずれかを満たすことを加える。
・その者が住民票の世帯主でない場合には、その世帯主との続柄として、未届けの妻又は未届けの夫その他これらと同一の内容である旨の記載がないこと。
・その者が住民票に世帯主と記載されている場合には、その者と同一の世帯に、未届けの妻又は未届けの夫その他これらと同一の内容である旨の記載された者がいないこと。
 
〇現行の寡婦控除の特例を廃止し、その者と生計を一にする子(*)を有する場合の控除額を35万円に引き上げる。
(*)総所得金額の合計額が48万円である者に限る。
 
〇扶養親族がいない死別女性で合計所得金額500万円以下の者に対する寡婦控除は、従来どおり27万円の控除額とする。
 
〇子以外の扶養親族を有する死別・離別女性に対する寡婦控除は、合計所得金額500万円以下とする要件を加えて上で27万円の控除額とする。

表にまとめると、次のようになります。

性別 寡婦・寡夫の原因 扶養親族要件 本人の所得要件 控除額
女 男 死別、離婚、未婚 子(*) 500万円以下 35万円
死別、離婚 子以外の扶養親族 500万円以下 27万円
死別 なし 500万円以下 27万円

(*)総所得金額の合計額が48万円である者に限る。

 
ひとり親に寡婦控除を適用する場合には、実態ベースで判断するので、事実婚の状態にないことの確認を求められます

適用時期

上記の改正は、令和2年分の所得税、令和2年分の年末調整から適用されます。

低未利用地の活用促進

低額の土地は、取引コストが相対的に高くなるため売買の対象から外れてしまいがちです。そのため、土地が活用されないままの状態が続いてしまいます。
これらの土地を譲渡した場合の譲渡所得について、100万円の特別控除を設けることで取引を活性化し、低未利用地の活用を促進させることが考えられました。

【適用要件】

  1. 譲渡価額がその上にある建物等を含めて500万円以下であること。
  2. その年の1月1日において所有期間が5年を超えること。
  3. その低未利用地が都市計画区域内に所在すること。
  4. 低未利用地であったこと及び譲渡後の土地の利用について市町村による確認が行われたこと。
  5. 譲渡が、その個人の配偶者やその個人と一定の特別の関係がある者に対して行われるものでないこと。

なお、適用を受けようとする低未利用地等を一筆の土地から分筆された土地等について、その年の前年又は前々年においてこの規定の適用を受けた場合には適用できません。

適用時期

土地基本法等の一部を改正する法律(仮称)の施行の日又は令和2年7月1日のいずれか遅い日から令和4年12月31日までに譲渡した場合について適用されます。

配偶者居住権等の消滅の対価を受領した場合の譲渡所得計算に係る取得費の算定

平成30年民法改正により創設された配偶者居住権等は、令和2年4月1日から施行されます。税制も同時期から施行されると思われます。
配偶者居住権とは、被相続人の相続開始時に配偶者が居住していた被相続人の財産に属する建物に、引き続き無償で居住することのできる権利をいいます(改正民法第1028条第1項)。配偶者居住権は、遺言又は遺産分割によって取得します。

建物に配偶者居住権が設定されると、その建物を取得した相続人は配偶者居住権が存続する間は、建物を利用することができません。配偶者居住権の効果はその建物の敷地にも及ぶことになります。

配偶者居住権の存続期間が満了し配偶者居住権が消滅した場合には、所有者は建物及びその敷地に対する権利をすべて有することになりますが、その際には所有者に対する課税関係は生じないこととされています。

配偶者居住権は一身専属権であり、譲渡はできないとされています。しかし存続の途中であっても配偶者が自らその権利を放棄することは可能であり、その場合には、所有者は建物及びその敷地に対する権利を有します。
この場合において、配偶者が所有者から消滅の対価を取得しなかった場合には、配偶者から所有者に対して対価相当額の贈与があったものとみなされます

相続税基本通達 9-13の2

配偶者居住権が合意等により消滅した場合
配偶者居住権が、被相続人から配偶者居住権を取得した配偶者と当該配偶者居住権の目的となっている建物の所有者との間の合意若しくは当該配偶者による配偶者居住権の放棄により消滅した場合又は民法第1032条第4項((建物所有者による消滅の意思表示))の規定により消滅した場合において、当該建物の所有者又は当該建物の敷地の用に供される土地(土地の上に存する権利を含む。)の所有者(以下9―13の2において「建物等所有者」という。)が、対価を支払わなかったとき、又は著しく低い価額の対価を支払ったときは、原則として、当該建物等所有者が、その消滅直前に、当該配偶者が有していた当該配偶者居住権の価額に相当する利益又は当該土地を当該配偶者居住権に基づき使用する権利の価額に相当する利益に相当する金額(対価の支払があった場合には、その価額を控除した金額)を、当該配偶者から贈与によって取得したものとして取り扱うものとする。(令元課資2-10追加)

(注) 民法第1036条((使用貸借及び賃貸借の規定の準用))において準用する同法第597条第1項及び第3項((期間満了及び借主の死亡による使用貸借の終了))並びに第616条の2((賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了))の規定により配偶者居住権が消滅した場合には、上記の取り扱いはないことに留意する。

配偶者居住権の消滅の対価を取得した配偶者は、その対価を譲渡所得として課税されます
この譲渡所得を計算する際の取得費は、被相続人の取得費をもとに、配偶者居住権が消滅した時点における配偶者居住権に相当する金額とされます。

また、配偶者居住権が存続している間に、配偶者居住権の対象となっている建物とその敷地が譲渡された場合の、配偶者と所有者の譲渡所得の計算方法についても、譲渡時点でのそれぞれの権利の割合で按分されます。

国外居住親族に係る扶養控除の見直し

扶養控除は、扶養親族の合計所得金額が38万円であることを要件としますが、この合計所得金額は国内源泉所得が対象となっています。
扶養親族が日本国外に居住する場合には、本国での所得は判定の対象に含まれないため、本国でいくら所得があっても日本での合計所得金額が38万円以下であれば、生計を一にするかどうかで判定されることが問題であると指摘されていました。

改正概要

〇国外居住親族に係る扶養控除が適用されるのは、年齢16歳以上29歳以下、70歳以上の者
 
〇ただし、30歳以上69歳未満の者であっても、以下の者は扶養控除の対象とできる。
・留学ビザのコピーを提出した者
・障碍者控除を受けている者
・送金関係書類において38万円以上の送金等が確認できる者

適用時期

上記の改正は、令和5年分の所得税、令和5年1月1日以後に支払われる給与の源泉徴収から適用されます。

ランダムな税金豆知識(目を通してみよう)

国税通則法 (1)

妻と離婚することになり、居住用不動産を財産分与したが、慰謝料として渡したものであるため、譲渡所得の申告は不要と考えていいか?

不動産を分与(所有権移転)した場合、その時の不動産の時価で譲渡が行われたことになるため、その不動産の時価を譲渡価額として譲渡所得の計算を行います(所得税法36①②、所得税基本通達33-1の4)。
なお、分与した不動産が財産分与者の居住用である場合は、各種居住用財産の特例の適用が受けられることがあります。

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Posted by matsui